多大な打撃を受けている、エンタメ業界。今までとは同じようには楽しむことは出来ず、新たな変革が求められている中、このような状況を打破し、いかに新しいスタイルを打ち出せるかが問われています。
そんなポストコロナ時代における「社会の自立分散性を獲得する」ためのライフスタイルや音楽ライブの未来を探るトークプログラムを、LOFT9 Shibuyaで開催しました。各業界のスペシャリスト登壇し熱く議論を交わしました、その一部をご紹介いたします。
登壇者
佐々木俊尚(ジャーナリスト)/津田昌太朗(Festival Life編集長)/加藤梅造(ロフトプロジェクト社長)/佐藤タイジ(シアターブルック・THE SOLAR BUDOKAN主宰)
〈ファシリテータ〉
南兵衛@鈴木幸一 アースガーデン主宰/「#ライブフォレスト&ハイライフ八ヶ岳」主催者
次のトークイベント
2020/07/09
Vol.2セッションテーマ『動き始めた限定集客ライブと模索を続けるライブハウスの未来』
コロナ禍においていち早く始まった限定集客型屋外ライブ「#ライブフォレスト」では7/11、満を持してROVOのワンマンライブが決定!自身のツアーやフェス出演が軒並みキャンセルとなった今、どのような決意をもって本番を迎えるのか、アーティストの本音に迫ります。
一方で、再開の見通しが立たない、閉店を決断するなど、まだ模索中のライブハウス業態の今後の展望をライブハウスの店長たちが語ります。
登壇者
勝井祐二 アーティスト
山本精一 アーティスト/難波ベアーズ店長
津田昌太朗 Festival Life編集長
加藤梅造 ロフトプロジェクト社長
〈ファシリテータ〉
南兵衛@鈴木幸一 アースガーデン主宰/「♯ライブフォレスト&ハイライフ八ヶ岳」主催者
レポート
音楽フェスとライブハウスの現状とは?
津田:現在Festival Lifeというメディアでは、年間400本位のフェスを掲載している中、コロナ禍により2月下旬から中止のアナウンスがあり、4月頃からフェスの開催予定だった場所で収録したものを有料配信したり、アーティストが自宅から生配信するなどの、いろんなかたちのオンラインフェスが開催されるようになった。またサマーソニック、グラストンベリーなど、国内外ともに過去のライブ映像を配信するフェスも増えた。
南兵衛:主催している「八ヶ岳ハイライフ」というフェスも7/11、12で予定していたが中止となった。行政など地元の人との協議を重ねた結果、9月に延期という結論になったが、会場側や地元関係者と丁寧な交渉を重ねた結果、延期についても前向きに判断してもらえた。
加藤:6/19にライブハウスが解禁になったが、その日に再開したライブハウスはわずか。準備期間が必要で急にはできないし、ガイドラインに基づき様々な制約があり、実施が難しい。シェルターや新宿LOFTもまだ集客イベントはできていない。(6/26時点)渋谷、下北界隈の若者たちが今、政治的な姿勢にならざるを得ない状況になっている。#SaveOurSpaceという営業自粛した音楽ベニューへの助成を求める署名活動が3月 27 日から始まったが3日間で約30万の署名が集まった。
ライブハウスや、ミニシアターは経産省の管轄下で、いわゆる文化施設として扱われていないことを今回初めて知りました。政府は配信事業には補助金を出すが、自粛による損失に対する補償はしない。配信で何ができるか、と考えるきっかけにはなったが。ライブハウスとしてはやっぱり集客しないとやっていけない。
国民が自立的に考えるべき、文化におけるニューノーマル
佐々木:コロナ禍において、ライブハウスは再開の目処が立っておらず、現状自粛警察が怖いから自粛しているという生産性のない堂々巡りの議論になっている。厚生労働省の専門家会議で、新しい生活様式を発表したが、具体性のわかる一例がまとめられているにすぎない。ニューノーマルは文化の話であり、国がコントロールするのではなく、国民が自立的に考えなくてはいけないもの。音楽業界は政治力がないため腰が引けてしまっている。フェス業界、音楽業界がこのくらいやっちゃって良いんだ、と誰かがやらない限り始まらないのではないか。これからは明らかなクラスターになるものや場所は避けながら、ある程度自由に動くことが大事。
加藤:ライブハウスでは、ネットでチケットを購入し、何か起きたら連絡が取れるようにしている。会場は換気もしているし、ライブを観ているだけだったらリスクは低い。
佐々木:感染者が出るのは仕方がない状況。病院で院内感染が出たからと言って批判の対象にするのではなく、一緒に支えるという社会の空気づくりこそがニューノーマルなのではないか。
ポストコロナの時代、今後のフェスやライブのあり方とは
佐藤:先日出演した、あきる野で開催された「#ライブフォレスト」は会場の環境も素晴らしくて、すごく良いライブだった。コロナ前と同じ状況に戻ることはきっとなくて、これまでより、もっと良くなるという考え方をしないといけない。コロナ第二波が来た時に、もっとハードなロックダウンが必要になるかもしれず、そのためにもこの夏のうちにどんなフェスができるかを考えなくてはいけない。
佐々木:同じ環境を共有しているかなど、「身体性」がすごく大事。スポーツ観戦などでも、飲み屋などでパブリックビューイングを楽しむと観客同士の共有が生まれる。「#ライブフォレスト」もあきる野の森から別の森に配信、などもあると思う。
津田:オンラインフェスでは、時間の共有に加えて、空間の共有、具体的にいうと、同じ飲み物が届いてそれを飲みながら一緒に配信を観るなどもあって、目の前にアーティストがいない場でもそういう体験が大切になるのではないか。
佐々木:距離が離れることはもう避けられない。今後も別の新型インフルなども起きるかもしれない。これからはある程度、備蓄をしながら、距離を若干置くスタイルが標準化される。その中でどのように互いの身体を近くに感じるのか、VRだけでは足りなくて、遠く離れても得られる共感が求められる。
オールスタンディングのライブは群衆の中の孤独のような感覚がある。自分の内面にどんどん入って、ステージのアーティストと繋がるような感覚が生まれる。その感覚こそが音楽の本質で、フェスって野原でみんなが集まってウェーイ!という軽いイメージがあるが、あれは実は「本質ではない」のでは。
フェスの再発見・再定義
佐々木:フェスを再定義する際に、大型フェスは有名アーティストを観に行ってアンセムを聴きに行く一方で、ローカルと都市住民が接する祝祭の場という意義などの再発見がある。コロナでみえてきたのは、お祭り騒ぎではなく、健全な日常こそが大事という発見。フェスは非日常の場である一方、日常とシームレスになったり、持続するような環境を考えるべき。
津田:それをいち早く成功させたのがフジロックだと思っている。苗場を1年に一回帰る場と捉えている人もたくさんいるし、他のフェスでもそういう感覚で参加している人をよく見かける。
佐々木:背景として、ここ20年で都市と地方の関係が劇的に変わった。優秀な若者が地方に移住して様々な活動をしている。リモートワークが推進されるようになり、今後は地方と都市がほぼフラットになるのでは。そういった地方コミュニティでも世代交代があり、そこにフェス文化が乗っかってきている。フェスはこれまでが旅のような感覚だったのが、そうではなくなってくる。
ライブハウスやフェスが、オンラインで何ができるのか?
津田:フェスは編集力とメッセージがさらに重要になってくるのではないか。スペインのプリマヴェーラというフェスは、出演者の男女比などジェンダー問題にいち早く取り組み、独自のメッセージを発信している。2019年は、それに賛同したアーティストも多く参加し、独自のラインナップになっていた。そういった独自性にのファンがついてくることもある。
佐々木:音楽においても、プラットフォームがバーティカルとホリゾンタルに二分していくと思っており、Youtubeなど様々な音楽が楽しめる巨大な(ホリゾンタル)プラットフォームがある一方で、もっと深く斬り込めたり、多様性を大事にしていたり、独自の取り組みをしているバーティカルなプラットフォームが今後価値を増していくのではないか。
加藤:#SaveOurSpaceは正に「場所をなくすな」という運動。一度なくなったら元には戻らない。ライブハウス同士がこれまで横のつながりがあまりなかったが、情報共有していかないとみんなが生き残れない。
佐藤:誰かが生き残って、なくなってという話ではなく、ライブハウスやフェス存続のためには、餌場を共有しあう動物、ボノボのように「分かちあう」ことが、我々の向かっていくべき「進歩」だと思う。
文:土田愛