毒矢の喩え[連載:BUDDHY WEDNESDAY]

ある時、マールンクヤプトラという弟子がブッダに対して、

「世界は未来永劫存在するのでしょうか?」
「世界には果てがあるのでしょうか?」
「ブッダは死後も存在するのでしょうか」

などの疑問を投げかけたという。そして、これらの問いに答えてくれないならば、自分は貴方の弟子を辞めますといった。これに対して、ブッダは次のように答えた。

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「あなたの疑問に対する答えを求めるのであれば、あなたはその答えを得る前に命が尽きてしまうでしょう。たとえば、ある人が毒矢で射られたので、みんなが心配して急いで医者を呼んできて、医者がまず矢を抜こうとしたら、その男が叫んだ。『この矢はどういう人が射たのか、どんな氏名の人か、背の高い人か低い人か、町の人か村の人か、これらのことがわかるまではこの矢を抜いてはならない。私はまずそれを知りたい』というのならば、その男の命はなくなってしまうでしょう。あなたの問いはそれと同じなのです。」(毒矢の喩え)

たとえば現代、個人の力では及ばないような大きな事案が目の前に差し迫っている時。
だれも傍観者でいられないハズなのに、いつまでも評論家風でいられるものだろうか。

「専門家でもないのに口を出すな」とか「外交の問題を勉強してから声を挙げるべき」とか。ではそのことばを真摯に受け止め、知見を深め、専門家になってから口を開いたとしよう。その時には「専門家なのに的外れである」などと言われるのが想像に難くない。どれだけ外交の問題を勉強してから声を挙げるにしても同様、言う人は言う。

周りを取り囲んだ人々が

「あなたは毒の専門家ではないのだから、抜くのは毒の専門家に任せるべきだ」と言ったり、

「その矢はどういう人が射たのか、どんな氏名の人か。背の高い人か低い人か、町の人か村の人か、勉強してから矢を抜こうとすべきだ」と言ったり、よもや

「わたしは毒がどのように身体に回るのか観察したい。だから抜かないでくれ」などと言われたら、どうだ。

他の人にとってはそれが毒でない場合もあるかもしれない。けれど、わたしにとっての毒矢が刺さったならば、抜かなければならない。悠長に構えている時間はないのだ。それこそ、「その答えを得る前に命が尽きてしまう」。

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人は口を出す。毒矢が刺さって苦しんでいるあなたの周りを大勢の野次馬が取り囲み、様々に声を掛ける姿が目に浮かぶ。医者の到着を待てなければ、肚を決めて、自分で抜きにかかるしかない。自分の人生のケジメを他人にとってもらうワケにはいかない。

何を言いたいかって、誰も余所の人の人生に責任は持たないのだから、それらの声にスポイルされるなんてナンセンス、まっぴらごめんということ。

世界を変えたければ、まず自分がその変化になりなさい。
―――マハトマ・ガンジー

たとえば、個人の力では及ばないような大きな事案が目の前に差し迫っている時。

わたしの1つのチャレンジが、小さな内なる変革を起こし、わずかに自分自身が以前のままではない事に気付くだろう。その小さなチャレンジの連続が、やがてこれまでと違った景色を見せてくれるかもしれない。その時にはもう一個人ではないかもしれないし、力が及ばないと思い込まされていた事案にも、力が及んでいるかもしれない。

1人では到底登れない、エベレストのような大きな山に登りたくなった時。トレーニングを行うだろう。そのうちに、トレーニング以外にも必要なことが見えてくるだろう。後戻りできない二者択一を迫られることもあるかもしれない。そのつど対応しようじゃないか。だってそれは、トレーニングを始める前には見えなかった景色。以前とは確実に違う場所に立っているじゃないか。

やっていくうちに、アルプスに目標変更になるケースもあるだろう。野草の魅力にとりつかれて結果カメラマンに転身するケースもあるかもしれない。いいじゃないか。つぎに毒矢で射られた者の痛みが解る。手を取り合える。いろんな角度から毒矢に備えていける。

よく行い、よく言うこと。行う、が先だ。

世界は未来永劫存在するのか、世界には果てがあるのか、ブッダは死後も存在するのか。悩んで足踏みしている前に、まず毒矢を抜きにかかろう。

環境も、景色も、境涯も、変えたい変えたくないにかかわらずどんどん流動していく。かといって、されるがままでいくのは自分の性分にあわないのだ。

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