震災直後のいしだ壱成が語る「僕だって原発が怖い一人の人間です。 でも、決めた。」

優しい目をしていると思った。いしだ壱成には、『ラジ』というもう一つの名前がある。自然や文化を愛し、原発の問題とずっと向き合ってきた彼は痛みを知っている。だからこその優しさなのだろう。家族から受け継いだ運命的な価値観を彼は受け入れ、共に頑張ろうと言ってくれた。

僕だって原発が怖い一人の人間です。でも、決めた。

南兵衛「久しぶりだね。ラジとはずっと話したいと思ってたよ。こんなことになるかも知れないと共に考えてきたことがとうとう起きてしまったね。」

いしだ「3月16日ぐらいから仲間のDJたちとあるプロジェクトを始めたんです。疎開を希望する人を、西日本で受け入れることを目的に。でも、西日本の人はすごくウェルカムなのに、疎開したい人はほとんどいないんですよ。いたとしても、福島の人じゃなくて千葉の人とか、新潟の人とか。やっぱり放射能の危険性って全然認識されてない。まるで他人事みたいなんです。東京のニュースではよく話題になっていますけど、名古屋では、ほとんど話題にならない。九州では、まったく出てこなかったんです。」

南兵衛「目に見えないから実感を持てないよね。」

いしだ「テレビとかインターネットで言われているいろんなことが、これから起きてくると思うんです。本当にこうなるんだって。冷静に受け止めて、自分たちで出来る対策はしていかなきゃいけないと思うんです。この問題を引き継ぐのは、僕らの子ども、その子どもの世代。今生きている人だけの問題じゃないんです。」

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南兵衛「例のブログ(彼が小学生の時に参加した原発反対の座り込み運動について書いた記事。詳しくは、いしだ壱成オフィシャルブログの2011年3月6日の記事『今だからみんなで考えたいこと。』参照。)が書かれたのって、3月6日だよね?311の直前にあのブログを書いたって言うのは僕は本当に運命だとしか言いようが無い。」

いしだ「本当にそう思います。あの時は、上関のことで本当に頭に来て、勢いに任せて書いてしまったんです。普段はあまり怒ったりしないんだけど…。伊方原子力発電所の実験を中止するために多くの人が集まって、機動隊との間で衝突が起きたこと。僕も含めて沢山の人が殴られ蹴られたこと。原発を知らない人に、どう思うかは別として、こんなことがあったんだって伝えたかった。原発の問題は今にはじまったことじゃない。僕が子どもの頃にもあったし、もっと前にもあったんですよ。言い争って、けがをして、あの場にいた誰もが傷ついた。誰も望んでなかったのに、起きてしまった。でも、今ならもっと良い解決方法があると思うんです。僕がもし管さんだったらどうしたらいいだろうって考えるんだけど、正解はないよね。でも、暴力だけはやめてほしい。」

南兵衛「正直に言って、普通の人がもつ「いしだ壱成」のイメージを覆したと思うよ、あのブログは。原発のことを声を大にして言ったのは初めて?」

いしだ「実はアイドル時代に原発のことを歌ったことがあるんです。直接的に歌った訳ではないですけどね。比喩として。インタビューで『この曲はどんなことを伝えたかったんですか?』とか聞かれて『原発のことを歌ってます。』って答えたらみんなシーンっとなっちゃって。関係者の人にも『もう言うな』って言われた。」

南兵衛「かなり葛藤があった?」

いしだ「母親の友人たちは、僕がテレビに出て有名になればなるほど、すごく期待される。原発の問題をテレビを通して伝えてくれるんじゃないかって。でも、言えないんですよ。その狭間に立たされて、とてもつらい時期がありました。あのブログを書いたあともなぜか足踏みしちゃって。何でなのか分からないんですけど。でも、決めた。今日、いろいろ話してて、吹っ切れた。NoはNoってはっきり言いたい。きっとこれから必要なのは役割分担なんですよね。自分の得意なことをうまく絡めて発信、行動して行く。今、それぞれがプロフェッショナルとして役割を自覚しつつあるような気がするんです。もう少し立てば全部ひっくり返せるんじゃないか。そんな希望を感じるんです。

昨日、ずっと高速運転して帰ってきたんですけど、結構きついカーブがあっても、ラインを描いて走り抜けた方が、速度を緩めるより安定する。それと同じで、今は速度をあげて盛り上げて行く時期だと思ってます。一緒に頑張りましょう。」

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南兵衛「もちろんだよ。頑張ろう。ところで、仕事はどう?今、俳優業とDJ業はどのくらいの割合なの?」

いしだ「大体半分ずつぐらいですね。イベントって祭りじゃないですか?どんな文化にも祭りと音楽は結びついてる。太鼓なのか電子音なのかが違うけど。日本人のDNAとしての祭り好きはもっと表に出していいと思います。もっと遊んで良いですよ。」

南兵衛「今度うちのイベントにも出てほしいな。芝居はどう??」

いしだ「三人芝居も決まりましたよ。7月から主演の芝居がはじまるんですよ。ちょっとえっちなコメディーなんです(笑)芝居は面白いですよ。空気感をいかに作るか。ただお酒を飲むだけでも、そこらへんの居酒屋で飲んでるのか、おしゃれなラウンジで飲んでいるか、何も言わなくてもお客さんに伝わるかとか。音楽にも同じようなところがあると思うんですよ。景色を作れるかどうか。そこまでできたら、すごくうれしいですね。」

南兵衛「仕事の中で何か東北をサポートできないかな?」

いしだ「被災地の人に芝居を見せてあげたい。十分な施設がない場所でも芝居がしたいって話を進めています。昔やったアパルトヘイトの物語をやりたいと思ってます。僕が19ぐらいに演じたことがあるんですけど。芸術って絶対無くならないじゃないですか?それだけ人間にとって必要なことだからだと思うんです。ちょっとしたメロディーや絵にすごく心癒されたりする。浄化作用ですよね。まだ現地には行けてないんですが、必ず行きます。」

南兵衛「行って、見て、話してをひたすら繰り返して行くしか無いよね。運命を信じて、一緒にやって行こうよ。絶対一人にしないから」

いしだ壱成オフィシャルホームページ『Arrivals』
http://www.isseiishida.com/