僕はもっと真ん中を行きたい。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が語る「明るい未来の話」

恵比寿のとあるカフェに現れた後藤さんはとても「普通」の人だった。気さくでおしゃれ。すごく自然体でありながら、志高く自分の意見をしっかりと持ち、声に出して主張する。ごくごく自然に社会について話す彼は、まさしく彼自身がめざすこれからの人の有り様を体現していた。

後藤正文 [ASIAN KUNG-FU GENERATION]
明るい未来の話をしよう

南兵衛「そもそも後藤さんを知ったきっかけはダライラマ法王のインタビュー企画を進めている時に、アジカンがライブでチベットの旗を立ててるっていう情報をきいたことからでした。」

後藤「きっかけは北京オリンピックですね。僕が大好きなビースティーボーイズやハイスタンダードが、フリーチベットを呼びかけるイベントをしているのは知ってたんですけど、当時は感情移入できなかったんですよね。だんだん年を重ねていくにつれ、世界情勢とかに興味をもってきて。その一つがチベット問題でした。中国は、二年後、三年後、チベットの人とどう向き合って行くんだろうって。

洋楽のミュージシャンは人権問題とか迫害の問題とかに敏感だし、みんなちゃんと意見を持ってる。僕らの世代はなんで言わないんだろう。誰がどう考えてもおかしいのに。熱しやすく冷めやすい感じも気に食わないなって思ったんですよ。

じゃあ、自分には何ができるだろうって考えたとき、チベットを忘れないようにしようって思ったんです。そのために旗を立てた。この問題が解決するまではどこでライブしてもかならず旗を立てるって決めたんです。中国でライブするとしても旗を立てれなければ帰ってきますよ。韓国のフェスでも立ててますね。これも僕にとっての表現の一つです。」

南兵衛「あの旗には、それだけの決意があるんですね。」

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後藤「僕らの年代はロストジェネレーションって言われてるんです。就職難で就職先が見つからず、バブルの頃の華やかさなんて全く知らなくて、人生全然良いことないじゃん。って社会に対してあきらめちゃってる世代なんですよ。責任をずっと回避してきた。だけどこのままいくと自分たちが良くないと思った大人達になってしまう気がしていて。事なかれ主義っていうか、悪いと思ってるんですよね。何もしないんです。みんな何かを感じてはいるんですよね。でも、行動に移さない。

だからこそ、ミュージシャンが表現すべきだと思うんですよ。30過ぎてからのパンクっていうか。様々な人の批判にも屈せず、臆せずに声に出すことだって一つのパンク精神なんじゃないかと思うんですよ。

でも、もっと若い世代のミュージシャンにも声を上げてほしいですね。僕はもう35ですから、発言して当たり前の年代ですよ。だから20代もっと頑張れよって。それは僕が20代の頃に社会にコミットしてなかったっていうことに対する自戒の念でもあるんですが。

20代って今にしがみついてるんですよ。執着心が強い。「変えよう!」っていうと「本当にできるの…?」って答えが多いのは20代なんです。まだ、30代よりはいいですけどね。30代は沈黙しているだけですから。選挙に行っても変わらないって諦めちゃってる。若い世代だけじゃないですよ。全体的に熱が無いんですよね。」

南兵衛「なんで社会にコミットできないんでしょう?」

後藤「政治的な発言をしない方がクールだと思ってるんんですよね。おかしいと思うけど。海外に行けば『お前ら自分の国のことなのに全然分かってないな。』って馬鹿にされますよ。そんな今を絶対ひっくり返したいですね。社会にコミットしていくことを普通のことにしていきたい。どんな仕事をしているかなんて関係なく、社会を構成する一員として当たり前ですよ。

自分の親の世代にははっきりと不満を持っています。学生の運動の時のパワーはどうしたんだろうって。あのとき、権力に丸め込まれた悔しい気持ちを忘れていると思うんです。逆に丸め込むことに必死になっているっておかしいですよ。

これからはもっと考えたり、話したりしたいですね。Twitterでディベートしてもいいですよ。きちんと発言もしていれば批判もされます。これからは右とか左とか、分けたってしょうがない。この社会がよくなればいいんです。

今回のことをきっかけにしていきたいですね。ピンチはチャンスですから。」

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南兵衛「これからやってみようとしていることはありますか?」

後藤「今年から農業をやってみようと思ってるんです。親戚が田んぼを持ってるので。毎年、親戚一同で手で植えるんです。大地との関わり方って、自分の作ってる音楽とか表現に繋がるんじゃないかなって。顔に泥のつくようなことをしてみたいですね。

若い頃は興味が無かった。そもそも伝え方があまりよくないと思いますね。キャッチコピーが先行しているというか。エコとかロハスとか、原発の問題をとりあげてる人たちは、インテリかヒッピーに別れちゃって伝わりづらいんですよ。

僕はもっと真ん中を行きたいですね。有機野菜を食べて、めちゃくちゃうまいことが分かればそれでいいんですよ。農業はすごくわかりやすいですよね。自分で実際に土を触りながら収穫をして、それを食べておいしいって実感するってとても直接的。やっぱり体験を通した実感が大事だと思います。

デモも増えてきたけど、普通の人は参加しづらい。デモって要するにパフォーマンスですよね。誰かに何かを伝える手段として存在している。なんでそもそもデモンステレーションが語源なのに、行進に結びつくのか分かんない。きっとホームページを立ち上げることもデモだし、テレビでしゃべるのもデモだし、もっといろんな人がいろんなやり方でやったらいいと思うんです。

南兵衛「いろんな人がやってることを緩く結びつけて、発信していきたいですね。世の中が一歩一歩変わっていくっていう実感が持てるように。本当はその役目が新聞なんですが。」

後藤「新聞の悪いところはジャーナリズムをうたっているのに、署名のない記事もありますよね?音楽の雑誌だってライターの名前は書いてあります。新聞社で何か間違ったことが書かれていても、会社全体の責任としてうやむやになってしまう。サラリーマン体質とジャーナリズムは結びつけない方がいいと思います。

僕らは僕らで新聞を作ろうと思ってるんですよ。30代が作るニュースペーパーを作ります。題名は「THE FUTURE TIMES」未来へのポジティブな話題で紙面を埋め尽くそうと思っています。こんな新しいエネルギーがあるんだって

とか。いろんな分野で活躍する30代を集めたメンバーで作ります。集合知のようなニュースペーパーです。NANO-MUGEN FES.2011でもブース作りますよ。」

南兵衛「そういう意味では、アーティストっていうのは記名性の最たる物ですね。堂々と名前を出してアウトプットにきちんと責任を持って活動している。これから後藤さんが動き出せばきっと、いろんな人と次々と繋がって新しい何かが生まれていく。どんどんリンクしていこう!」