3Dプリンタやカッティングマシンを自由に使える!今話題の「ファブラボ」をフィリピンの貧困改善につなげていけるって本当?

これまでの大量生産・大量消費の世の中で「つくる人」と「使う人」は極端に分断されてきた。ファブラボは、個人による自由なものづくりの可能性を広げるための実験工房。3Dプリンタやカッティングマシンなどの工作機械を備え、人々にデジタル・ファブリケーション技術の利用機会を提供する。そのネットワークは世界中に広がっていて、機械の使い方、デザインデータなどがオープンフォーマットでシェアされ、自由に使える。

そんなファブラボが新しくフィリピンのボホールにオープン予定。この新しいものづくりの仕組みを生かして貧困改善に取り組んでいるのが、国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊でボホール島に派遣されている徳島泰さんだ。

FabLabでデザインを通じて広がる自由なものづくり~
世界に繋がるコミュティ「つくる人」と「使う人」
青年海外協力隊 徳島泰

途上国の貧困解決支援に歴史的変革を

徳島「見方によってはこれまでのフィリピンの貧困支援はやってもやっても・・・だったわけですが、ファブラボはその今までの支援を、根本からガラっと変える可能性があると思ってます。今までの支援の問題点にはモノを配っておけば良いという、いわゆるバラマキ型と言われる支援の方法に問題があった面も多いと思うのです。

例えば途上国に体温計を配るにしても、水銀が入ったガラスがデコボコ道で割れてしまう 、電子体温計は電池が切れたら現地では買えないでいる。バネばかりの体重計を配っても米やサトウキビ量りにするからバネが壊れる…意味がない支援というのも多かったと思うんです。

その中で現地人がこれはおかしいって当たり前に気付くはずのことが、先進国がバラマキしてきたせいで気付けなかった。だってタダでくれるんですからね。使えなくても貰えるもんは貰っときゃいいや、というのがあったと思うんです。これを、現地人が自分の手でつくることで改善していけるんじゃないかと。

体温計なんて簡単で、ソーラーにするか手回しラジオみたいにするかですぐに問題解決できるんです。でも、今までこれを誰もやってこなかったんです。おかしいとおもいません?ただ現地に作れる仕組みや環境がなかったからじゃないかと思います。「現地で作る」これができるようになれば、今までやってきた途上国支援のあり方が、大きく変わる可能性があります。」

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ファブラボの拠点となる、フィリピンのセブ島から2時間ほどのボホール島は、港や飛行機などの物流インフラの悪さが悪循環を生み出している。全てのものはセブを経由するため、余計な費用がかかり全てのボホール製品はセブ産と比べて高額になってしまうのだ。島への投資は非常に少なく、仕事を求める中間層の人材も流出してしまうため、地域間格差は広がるばかり。

ゼロから生み出すデザインを通じて産業と雇用を作る仕組み

そのような悪循環を抜け出すために、地元に適した生活向上のデザインを自分自身で作れる仕組みを提案するのがファブラボである。
現在ボホールのファブラボは慶應大学のソーシャルファブリエーションラボを親ファブラボとして、またインドネシアのHonFabLabを兄ファブラボとして、パーツの物流から機械のメンテナンスの指導までの支援を受けて運営される予定 。

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写真はFabLabボホールのスタッフの、FabLabインドネシアでの研修のシーン

徳島「今までは地元デザイナーが高品質なデザインを発案できても、例えばガラスを切る設備が無いとかパターンを入れる印刷機が無いとか削り出しの機械がないとかで、だいたいのものは商品化できませんでした。
デザインして何かを作るってときには、一から設備を買うところから始めなければならならなかったんです。

ファブラボができて基本的な設備があるってことになると、とりあえず試作がつくれるようになります。この試作をもって営業にいけます、ビジネスチャンスを作りにいけます。実際にビジネスが始まっても、量産も100個200個くらいならファブラボでできます。

ある程度ビジネスがまわってからなら投資も入れやすいでしょう。要するに初期投資リスクを極端に下げることができるんです。つまり市民企業家とか地元のちょっと小金持ちなんかの三角形のトップにいる人が、今までリスクが大きくて投資できなかった地元に、投資できるようになるんです。」

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他のラボの助けを借りられるファブラボのコミュニティ

徳島「 ソフトウェアであるとかハードウェアは全世界のファブラボでほぼ共通のものを使っているから、例えば設計は海外でして、オッケーだったらそのままフィリピンで出力してつくるなんてこともできるわけです。

今、慶應大学とプラスチックリサイクル機器の共同開発のようなことをしているのですが、これはこっちから“こういうのじゃないとフィリピンでは無理です!”っていう仕様を慶応の研究者さんに投げて設計してもらって、慶應大学から送られてきた設計データを使ってこっちで現地デザイナーと一緒に機器を制作(プリント)して、実際のリサイクルプラスチックの生産は現地のスラムの人とかにやってもらうって事を考えてます。

こんな風にファブラボのコミュニティの手を借りられるっていうのがすごく大事ですね。」

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デザインとしての付加価値をあげるソーシャルレスポンスビリティ

ボホールのファブラボではデザインを生み出すことに加えて、そこに更なる付加価値を付ける取り組みにチャレンジしている。具体的に進行中である取り組み、プラスチックリサイクル事業では、途上国の大きな課題であるゴミ問題の解決を目指す。

徳島「もしプラスチックゴミが近所の加工所で二次加工できたら、金属ゴミみたいにスカベンジャーさんがプラスチックゴミも集めて、街の加工所で加工して、それを製品に変える、なんてことができるようになります。

もしそれができたら、街からゴミが消えて、新しい工場も創出できるし、エコっていう意味で新しい製品ブランディングもできるでしょう。

例えばその辺に転がっているような鉄パイプの中にプラスチックゴミ突っ込んで、熱して溶かしてブレード(ひも)で出すという二次加工ができれば。編めるものさえブレードとして出しちゃえば、アジア・フィリピンの伝統的な編みの文化を生かして、リサイクルプラスチックで結構なんでも作れちゃうんです。」

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ハイテクと精密加工とローカルマテリアル組み合わせで生まれる無限の可能性

徳島「アジアの貧困地域でもウエストされているマテリアルって実はいっぱいあるんです。例えばタケとかココナッツの皮とか。そういうローカルマテリアルを、ハイテクや精密加工と組み合わせて使っていくっていうのは、無限の可能性があると思っています。

ボホールのファブラボには、慶應大学さんやインドシアのファブラボだけじゃなくて、リバースプロジェクトさんとか、フィリピンの科学技術省や、貿易産業省(日本でいう経済産業省)のデザイン部門なんかも協力してくれています。

私の派遣元である国際協力機構(JICA)からも、これはファブラボを途上国開発に活用していく為のフラッグシップだと、積極的な支援をいただいていています。

これからどんどん新しいものを作って、グッドデザインとか展示会にもだしていって、ボホール発の新しい価値を世界に広めて行こうと思っています。そうすることでようやく、“何を作ってもどうせボホールよりセブの方が安い”っていう根本的な問題点を、“ボホールのものを買うことに意味があるんだ”っていう文脈に書き換えて、問題解決に繋げられるんだろうと考えてます。そしてそれが、貧困改善のための大きな一歩を踏み出すことになるんじゃないかなって思っています。」