東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた東北沿岸部。特に漁業関係者にとっては、生活の場、生業の場が根こそぎ奪われた地域がたくさんあります。
<ピースボート災害ボランティアセンター>が進める「イマ、ココ プロジェクト。」は、津波の被害を受けた漁村にボランティアという形で外部から人が入り、人手の足りない水産業のお手伝いをするところから始まります。
そして、7日間の滞在期間で見えてくるのは、海の美しさや海の幸の美味しさだけでなく、海に生きる人たちの強さや温かさ、現代社会で忘れがちになっている自然のリズムのなかで生きる暮らしの心地よさなど。なかなか普段では触れることのできない、貴重な経験を得ることができるのです!
津波の傷痕が残る東北沿岸部
宮城県石巻市をはじめとする東北の太平洋沿岸は、震災から3年経った今でも、港の改修工事が終わっていないところがほとんどです。また海沿いで自宅が被災した方の中には、用地の高台移転がそれほど進んでいないため、仮設住宅で暮らす人も少なくありません。
部分的には、港の改修工事が終わり、漁業や養殖業、水産加工業など、かつての水産業を再開できているところがありますが、震災前からあった一次産業の担い手不足に加え、震災を機に海の仕事から離れた方も多いため、慢性的に人手が足りていないと聞きます。まだまだ震災からの復興は遠い道のりのようです。
石巻市最北に位置する海沿いの集落、大指地区
今回、私がボランティアとして入ったのは、石巻市北東部、北上町十三浜の大指(おおざし)という地区でした。そこでワカメの養殖から加工、ウニやアワビの漁などを行っている、西幸水産の西條幸正さん。優希くん、優作くんという2人の息子さんと共に水産業を営んでいます。
2011年3月11日の大震災の時、幸正さんと息子優希くんは地震直後に漁船を沖合に避難させることができたため、津波による直接的な被害は逃れたそう。ただ、その晩は岸に戻ることもできず、仲間の漁船と一緒に雪の降る凍える夜を過ごしたと言います。その後もライフラインが止まった自宅で食料も少ない中、親戚の人たちと一緒にいろいろな面で厳しい日々を過ごしたと話してくれました。
西幸水産では、「イマ、ココ プロジェクト。」が約1年半前に始まった当初からプロジェクトに関わっていて、これまで約60名のボランティアを受けて入れてきたそうです。
「今までいろんな苦労して。震災になって、もっと苦労して。だけども、俺たち、ここに来たあんたたちみたいなボランティアさんたちに救われて、今があるんだよね」と話す幸正さん。
今回、一緒にボランティアに入ったのは、2名の20代女子で、石巻市でボランティア活動に関わる九州出身のユカちゃんとアメリカで育ち、現在イギリスの大学に通っているサトちゃん。若く元気なこの2人は、仕事の時でも食事の時でも、一見怖そうな幸正さんと一緒に、いろんな冗談を掛け合いながら、塩蔵ワカメの芯抜き作業や出荷作業、ウニ漁やその後のワタ取りを手伝っていました。
初めて触れる海の仕事
塩蔵ワカメの芯抜き作業(茎と葉の切り離し)は、慣れるまでなかなか難しく、コツがいります。作業は、幸正さんのお母さんと一緒にやりましたが、お母さんの素早く、的確な手やカッターの動かし方はさすがです。いろいろ細かく教えてもらいながらコツを掴んでいきました。
ウニ漁は、前日に漁協から許可が出た日(開口日(かいこうび))に行います。時間帯も決められていて、私たちが同行した日は朝4時半〜6時半の間のみ。朝早く起きて、準備をして、船に乗り、沖に出ました。比較的小さい船で漁師さんは箱メガネで海底のウニを探し、「カギ」と呼ばれる8mほどの長い棒の先に2本の爪が付いたものでウニを引き上げます。そのカギの動かし方に躍動感たっぷり。普段、船にも慣れていない我々は波で常時揺れている上に、水中を覗き込みながら素早く、正確に、流れるようにウニを次々と引き上げていくその姿に、ただただ見とれてしまいました。
自宅に戻り朝食を食べた後は、ウニ剥きの作業。ウニの殻を開け、中身をボウルに出し、ピンセットで黒いワタを取っていきます。これは簡単だろうと思ってやってみたら、これがなかなか根気が必要で・・・。集中力が切れたころ、この獲れたてのウニをパクリと一口食べさせてもらいました。舌の上でとろける食感と、口の中いっぱいに広がる海の香りと甘み、そして切れ味のある海の塩辛さ。この旨味といったら・・・。市場で出ているのは、ミョウバンで形が崩れないようにしているため、苦みが含まれているとのこと。これこそ、新鮮な海の味なんですね。
その他の日は、養殖ワカメのロープの回収や袋詰めしたワカメの出荷作業などを手伝いました。漁から加工、出荷まで。海に生きる人の仕事の一端に触れることができました。
豊かな浜の暮らし。優しくアツイ人の繋がり
浜で暮らす人たちの多くは仕事場と生活の場が隣接しているため、移動時間が少なく、基本的に朝、昼、夜の食事は正しい時間帯にまわってきます。ホヤやタコ、ワカメ、ウニなどの新鮮な海の幸を家族揃って食べれる、海沿いならではの贅沢な時間。夜はお酒を飲みながら、いろんな話を聞くことができました。
幸正さんはタバコとお酒が大好き。でも前の日にどんなに遅くまで飲んでも、次の日が開口日だったら、朝4時に起きると言います。実際、私がボランティアとして幸正さんの家に来た日のこと、夕方6時から夜中2時まで2人で飲んだのですが、翌朝、私がふらふらと起きたらもう家の前に大量のウニが入ったカゴが置いてありました(最初、幸正さんが穫ったとは信じられず、失礼な言動をしてしまい・・・)。
「自分に甘えては駄目なんだって。俺はそうやって生きてきたの。仕事は仕事。飲むときは飲む。別。女を好きになるときは好きになる。愛し合うときは愛し合う。そういうこと」と焼酎を飲みながら話す幸正さん。
ランティアのユカちゃんから、「(ワカメの芯抜きとか、ウニのワタ取りとか)私たちは本当に作業が遅いから、逆に迷惑をかけているんじゃないかって思っちゃう」と口にした時、幸正さんは「それは違うべや」と言って、こう続けました。
「息子がいる時は一緒に作業するけど、俺一人でやることも多いっちゃ。何年もそうやってきた。だから自分一人でもできるんだけども、やっぱり『イマ、ココ プロジェクト。』でボランティアさんたちにいろんな経験させるの大事だって思うし、今、ここであなたは何ができますか?って話でしょ。だからそんなことは考えてなくていいの。ただ、俺、言うことはキツイけどね。人相も悪いけど(笑)」
この春、幸正さんが中心になって、震災後ようやく復活させたという、隣町、南三陸町神割崎で開かれた「潮騒まつり」。ある晩はその会合にも連れて行ってもらいました。南三陸町は、メディアでもよく取り上げられるほど、津波による被害が大きく、未だ町も港も再建できていません。この日集まったのも震災時に何とか生き延びた人たちで、記憶の中にまだ心の傷を深く負っているみたいでした。この土地をどう復興させていくのか。地域の人たちが手を繋ぎ、少しずつやれるところから光を当て、新しい道を作ろうとしています。また、みなさんがとても明るく、楽しげに来年の「潮騒まつり」について話しているのが、印象的でした。
翌日、幸正さんはこんなことを話してくれました。「昔から浜の人間ってのは、ひどい時があっても人に助けられたり、人を助けてやったりと、その流れがあると。それが浜の良さなわけだ。それを思わない(感じない)とその地域に染まれないわけだべ。一番がそこなわけ」。
ポスト東日本大震災。そこで求められていること
幸正さんは、宮城県の漁業士会(漁業後継者の育成に関わる組織)の副会長をやっていて、さまざまな場で海に関わる学校の生徒などと顔を合わせることが多いそうです。ただ、特に震災以降は漁師を目指す若者が減り、ほとんどゼロに近いと言います。
「海に携わっている人間も、基本はお金を得るために仕事しているわけだ。経費もかかるけど、どれだけお金が残るかっていう魅力を子どもたちにわかってもらわないと、絶対、後継者は残らないよ。これだけ一生懸命やったら、これだけ収益があるんだってわからないと。俺は人がやらないことを経験してきた人間だから。人よりは絶対に経験は豊富なわけだ。みんながやっていることと同じことを自分もやったら、マイナスになるって思っているから。そういう生き方なの。要は安心したくないの。だから、新商品の開発とかも常にいろいろ考えているんだよ」と幸正さん。
「イマ、ココ プロジェクト。」では、これまで漁業に関わってこなかった人で、今後の生き方を模索している人たちに積極的に参加してもらえるような場づくりを目指しています。美しい海のある暮らし、豊潤で美味しい海の恵みに携わる仕事、温かい人の繋がりがある地域社会。このような場でこそ、生き甲斐を感じ、個人の能力を発揮できる人は、まだまだたくさんいるはず。そして、新しい感性を持った人が入り込むことで、多様な地域社会が日本各地で生まれていくことこそ、震災後の新しい国づくりの道があるように思います。
見た目が怖そうでも根は優しい。そして海のような大きさが伝わってくる。繋がりが求められるこんな世の中だからこそ、一度あなたも海に生きる人たちに触れてみませんか?
ピースボート災害ボランティアセンターが進める新たな復興支援。「漁村での生活体験」という非日常の時間の流れの中で、自然と向き合いながら受け入れ先となる漁師と共に汗をかき、楽しみながら、現状を学ぶことができる。7日間から参加可能で、受け入れ先との交渉次第で延長も可能。
http://imacoco.pbv.or.jp
問い合わせ先
ピースボートセンターいしのまき
〒986-0824 宮城県石巻市立町1丁目5-21(石巻駅から徒歩10分)
TEL:0225-25-5602
FAX:0225-25-5603
MAIL:ishinomaki@pbv.or.jp