日本のロックシーンを牽引する、オルタナティヴ・ロックバンド「the HIATUS」の細美武士さん。東日本大震災以降、災害ボランティアに参加したり、傷ついた被災地に若者の拠り所であるライブハウスをつくる、「東北ライブハウス大作戦」に協力したり、BRAHMANのTOSHI-LOWらと共に、アーティストとして東北支援のライブや脱原発のイベントにも第一線で動いてきた。
未来のために何が自分にできるかを問い続け、今できることを自ら行動することで僕たちに希望と勇気を与えてきてくれた細美さん。震災から3年が経ち、今、思うことを伺った。そこには、等身大の姿が浮かび上がる。
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311を境に
俺は、社会と接点を持つってこと、前はあんまり感じてこなかったけど、最近はそれを少し、感じられているんだよね。
人や社会がどうであろうと、ずっと興味がなかったし。ガキの頃から、疎外感も感じていたし、人の群れみたいなものは大っ嫌いだった。学校社会もね。何か、ずっと、敵対してきた感覚があるよね。
震災後だって、最初から今みたいだったわけじゃなくて。単純に何かがしたいっていう衝動で東北に行っただけで。物資を運んだり、ボランティア活動をさせてもらってた。その間も本業は続いてるから、沖縄でライブやって、飛行機で成田まで帰ってきて、そのまま空港から車で東北行って、朝からボランティアやって、15時に終わって帰ってきて、また仕事をしたりとか。そんな感じだった。
TOSHI-LOWともたまに話すんだけど、俺もどっかで命の使いどころを探してたようなところがあったから。「ああ、ここじゃん」って思ったんだよね。だから放射能も何にも怖くなかったし、3日寝なくってもこのまま心臓止まっちゃうなら、それはそれだって。めっちゃ独りよがりな感覚なんだけど。なんかの役に立つ使い方があるんなら、まあその方がいいよな、みたいな。そんな感覚だったと思う。最初は。
で、東北ライブハウス大作戦のハコも出来てさ。震災直後は、みんなでとにかくあそこまでたどり着かなきゃって思って走ってた。
ボランティアでお手伝いさせていただいた方の家の庭に、防潮堤のでっかい松の木みたいなのが流されて来てて、みんなでノコギリで切って運び出してたらその下から、中学生の卒業文集が出てきた。泥だらけのやつが。まあそれ以外もいっぱい出てきてさ。なんかそんなふうにして、ちょっとずつ、今まで関係なかった世界が、関係ないものじゃなくなっていった。
まわりに伝える、伝わるもの
そういう感覚が、今、こういうことやろうと思ってるモチベーションに繋がってて。善良でいたいとかじゃないんだけどさ。自分が善良じゃないのはわかってるし。人間、誰だって心の中には悪い人がいるのもわかってる。だからお金の方がよっぽど大事って言ってるような連中でも、まぁきれいごと言ってない分、自分は善人だって面してるやつらよりマシかなって思う瞬間もある。でもなぜか、自分がこの世を立ち去る時に、次の世代の連中には、もうちょっとマシな世界を残したいっていう気はするんだよ。
俺はどんな選択であれ、自分の意思で選択をしたっていう実感が欲しい。だからあんまり、「今こうやって、行動するべきだ」って、人に言う気がないの。「食べたいものがテーブルの上にあったら、お腹がすいた人が勝手に食べる」ぐらいの感じで活動できれば、一番いいなと思ってて。もし俺たちがテーブルの上にちゃんとした食いもんを置いとかなかったら、そもそも努力が足りないと思うんだけど。人の口をこっちからこじ開けて、「これ、絶対食った方がいいから」ってまでやるのは、俺のやり方とは違う。ここに置いておいて、まず自分たちはうまそうに食う。「それ美味しいの?ちょっとちょうだい」って言われたら、「いいよ」って返す。それが、社会的活動をまわりに促すときにできる、最大のことなんじゃないのかな。
自分たちが何らかの活動を自分で選択して、楽しんでやっているっていうところを明確に出した方がまわりに伝わりやすいと思うし。俺、誰かのためにやってるっていうよりは、自ら行動することで自分の人生が繋がって広がってってる感じがして。だから、はっきり言うけど、自分のためにやってる。人のためだなんて、言えない。
チャリティーの本質を理解して、楽しく、次に繋げる
震災直後に急に、いろんな人がチャリティ、チャリティ言い始めたじゃん。その頃に初めてチャリティって何?って思ったから、本買って来て調べてみたの。そしたら思った通り、カネを集めて送ればチャリティってわけじゃないってことがわかった。いまどこで緊急の非常事態が起きてて、どういうアクションが必要かって情報を、支援を送れる地域に届ける、っていう重要な役割がある。そのへんは知れてよかったなって思ってる。
チャリティイベントの作り方も調べてみるといろんなパターンがあって、俺がいいなと思ったのは、参加する人たちが楽しかったなとか、元気が出たとか、そう思えるものに参加することで、いつの間にか重要な問題を身近に感じられるようになったり、理解できたりする。でまた行きたくなる、そういう良いサイクルでまわって広がってくようなもの。だからトークの企画でも「勉強になりました」とか「興味深かったです」って言ってくれるより、俺は単純に「今日、楽しかったです」って言って帰ってくれればいいなと思ってて。それが最初の感想になれば、きっと続いてく。
俺自身は、知的好奇心をくすぐってもらえるものであれば、笑いなんかなくても全然構わないんだけど、でも、チャリティをつくる基本は「楽」。見てて「楽(ラク)」だし、「楽しい」し。そして結果が世界を良くするものに繋がる。そういうものをつくっていきたいよね。
細美さんの内面にある善と悪。目の前に叩き付けられた現実に、自分の二面性を客観視しつつ、自ら行動することでその先の一歩に繋げる姿。アースガーデン”冬”のステージに来て、細美さんの人間性を感じて欲しい。
編集:渡辺亮、南兵衛@鈴木幸一
写真:須古恵
http://www.takeshihosomi.com/
ELLEGARDEN活動休止後、the HIATUSのボーカルとして活動中。オルタナティブ、アートロック、エレクトロニカへ傾倒しつつも、ジャンル不問の新しい音楽を追究し続けている。また、2011年以降はソロアーティストとしての活動も活発になり、クラブDJやループサンプラーを用いた弾き語りライブも行っている。