<キャンプごはんレシピ>ワンポットパスタをつくる [連載:Banana Kitchen]

初夏と思いきや、夏全開の日々。キャンプやBBQ、外ごはんが楽しい時期になりました。そんなわけで、今月のBanana Kitchenは、少し気分を変えてキャンプごはん。今回は、私の自転車旅の記憶と写真と共にお届けします。

去年のことです。半年をかけて、ペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、ブラジルを巡りました。はじめはバックパッカーとして巡っていたのですが、とあるご縁を得て、南米チリ・アルゼンチンのパタゴニア地方に位置する“アウストラル街道”、約1200kmを自転車で走ることになりました。こうして、これまでキャンプなんて無縁だったわたしが、鮮烈なキャンプ生活デビューをしたのです。

チリ側は、氷河期時代の氷河で造られた大規模なフィヨルドが広がります。
チリ側は、氷河期時代の氷河で造られた大規模なフィヨルドが広がります。

 
とある日のキャンプサイトで民家の庭に積み上げられた薪。暖炉文化の残るチリでは冬を越すまでにこの薪を使い果たします。
とある日のキャンプサイトで民家の庭に積み上げられた薪。暖炉文化の残るチリでは冬を越すまでにこの薪を使い果たします。

  
未舗装の道が大半を占めるアウストラル街道。高低差は1000m以上と勾配がきつい。ツアーで荷物なしで周るサイクリストたちもたくさん。実は先頭を走っているのがわたしです。
未舗装の道が大半を占めるアウストラル街道。高低差は1000m以上と勾配がきつい。ツアーで荷物なしで周るサイクリストたちもたくさん。実は先頭を走っているのがわたしです。

  
アウストラル街道は、自転車乗りの世界三大聖地のひとつです。
「世界一美しい林道」の名の通り、現実とは思えないような光景に、感動の連続でした。

地球の歴史を思わせるダイナミックな氷河や滑らかな地層、
絵の具をこぼしたかのような鮮やかな青い湖、
いのちの生まれを感じるような黄金の色彩を放つ朝焼け。

 マーブルカテドラル。幻想的な形をした洞窟に、湖水の青が反射し青く輝く世界を作り出しています。
マーブルカテドラル。幻想的な形をした洞窟に、湖水の青が反射し青く輝く世界を作り出しています。

 
朝焼けと共に走り始めます。
朝焼けと共に走り始めます。

 
晴れ渡った空と青い湖。境界線がわからなくなるほどです。
晴れ渡った空と青い湖。境界線がわからなくなるほどです。

  
途中、トレッキングに立ち寄った”セロ・カスティージョ”からの眺め。
途中、トレッキングに立ち寄った”セロ・カスティージョ”からの眺め。

 
毎晩、満点の星空に包まれます。
毎晩、満点の星空に包まれます。

 
この世のものとは思えない光景に目を奪われっぱなし。
この世のものとは思えない光景に目を奪われっぱなし。

 
一年を通して気温が低く、「風の大地」と言われるパタゴニア。私が訪れた晩夏~初秋でも、最低気温は5度前後にもなります。まだ外の暗い5~6時に起床し、朝ごはんで身体を温め、荷物をまとめたら出発。ハンドルを握る手がかじかみ、朝霧で前が見えない日もありました。

日中になると気温は一気に上がり、照りつける太陽が体力と水分を奪います。長いときには3時間、走り続けました。食事休憩では、できるだけおおきな木の陰を探しました。立ち止まると、パタゴニアのつよく、つめたい風が汗と一緒に体温を一瞬にしてうばうからです。そうして一日3回ほど休憩をしてエネルギーを補給し、日が暮れる少し前にその日のキャンプサイトを決めます。林の中や道端、時に民家の軒先をお借りして、テントを張ります。そうしたら、待ちに待った晩ごはんの準備です。

わたしはどこにいるでしょう?
わたしはどこにいるでしょう?

  
10時間近く走り続けて疲れ切った体…手早く作って食べて、明日に備えたいところ。

そんな中、定番だったのはワンポットでできるパスタ・アラビアータ。材料は最低限、簡単、美味しくてボリューミーとあって、リピート率はナンバー1でした。

そんなわけで、簡単3ステップのレシピをご紹介します。写真ではショートパスタのリガトーニを使っていますが、お好みのパスタで作れます。

ワンポットパスタ・アラビアータ

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材料(2人分)

お好みのパスタ:150g~200g
EVオリーブオイル:大さじ2
にんにく:1片
赤とうがらし:2本
玉ねぎ:1/6個
カットトマト:約400g(1缶/1パック)
水:200cc
塩:小さじ2/3

作り方

1)【下ごしらえ】にんにく、玉ねぎはみじん切りにし、赤とうがらしは種を取って半分にしておく。

2)【具材を炒める】フライパンあるいは鍋に、にんにく・赤とうがらしを加え、オリーブオイルで弱火で香りが立つまで炒める。さらに、玉ねぎと塩少々を入れ、中火でしんなりするまで炒める(蓋をして蒸し焼きにし、時折混ぜれば時短になります)。

3)【煮る】カットトマト、水、塩を加えて、煮立たったらパスタを入れ、中火にして蓋をし、袋の表記時間−1分煮る。蓋を開け、かき混ぜながら水気を飛ばし、ソースを煮詰めるようにしてさらに1分煮たら完成。

※パスタは鍋肌に張り付きやすいので、3)の時に2~3分に一度蓋を開けて底からかき混ぜてください。
※ソースは多めのため、パスタは200gまで増やすことができます。通常のスパゲッティを使う場合は、半分に折ると調理しやすいです。
※最後にお好みで、チーズやバジル、パセリなどを振ってももちろんおいしい◎

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キャンプごはん、と言いつつ、もちろん普段のごはんでも使えるテクニック。鍋とフライパン2つ使ってパスタを作るのは面倒、、というときや、災害時であれば、お水を節約してお料理ができます。その時は、パスタを入れてから1分ほど煮たら火を止め、表示時間放置し、もう一度火を入れなおして煮立たせれば大丈夫。大切なお水やガスを節約できる方法でとっても便利です。

とある日のキャンプサイト。どこでだって料理します。その辺にあった丸太がちょうどいい作業テーブルに早変わり。
とある日のキャンプサイト。どこでだって料理します。その辺にあった丸太がちょうどいい作業テーブルに早変わり。

 
氷河で作られたこの地形が生み出す美しさの裏には、厳しさや過酷さがありました。

いきものようにうめき、姿を変えて吹き付けるつよい風。その風に応えるかのように、土の地面は水面のように波打っています(コルゲーション現象と言います)。波打った道は、容赦なく自転車とわたしの頭を揺さぶり、全身をたたきつけます。自転車のネジが、いつの間にか飛んでいくほどの激しさです。

風に車体は煽られ、大きな石や深い砂利に何度も車輪を取られます。転倒を繰り返すたび、くじけそうになりました。向かい風で進まないペダル、幾重にも立ちはだかる坂道。膝や肘、全身が痛み続ける中、それでも進むしかありません。

風や土は、彼らの姿をしなやかに変化させ、ただ生きているだけなのです。偉大な自然を前に、憤りを覚えても、意味はないのです。ちっぽけで未熟な自分を痛感しました。

「つらいという気持ちは、あるように感じているだけで、実は存在しないものなのかもしれない。」そう理解し、なにも考えず、1ペダルずつ、前に進み、一つずつ、峠を越えていきました。

氷河を目の前に小休憩。へとへとで、どこでだって寝てました(笑)
氷河を目の前に小休憩。へとへとで、どこでだって寝てました(笑)

アルゼンチンとチリにまたがる「世界一過酷な国境超え」。トレッキングの山道を自転車で越えるのはなかなかタフでした。
アルゼンチンとチリにまたがる「世界一過酷な国境超え」。トレッキングの山道を自転車で越えるのはなかなかタフでした。
  
 
普段の生活では当たり前なことも、当たり前ではなくなります。

1日3食の習慣が抜けきれなかった頃は、ハンガーノックを起こし、手足は痺れ、意識は遠のき、身体が一向に動かなくなることも何度もありました。「食べることは生きることなんだ」と実感する瞬間でした。

時に視界と進路を阻み、苦しめられた雨。でも、氷河の溶け水で喉を潤し、その水で調理した料理を食べるうちに、これも雨のおかげなんだ、雨に感謝しなければ、という気持ちが湧いてきました。いかに水の恵みを受けているかがわかりました。

そのほかにも、アスファルトの走りやすさに驚いたり、たった一枚の壁や屋根があることに感謝したり、木や草が暖かいことに感動したり。日が暮れたら眠りにつき、日が昇ると活動を始める…そんなことが、すごく贅沢に感じられました。

想像をはるかに超えた道の険しさに、泣きそうになったことは何度もありました。一方で、この自転車旅をしていなければ出会えなかった景色、鳥のさえずり、虫の羽が擦れ合う音、氷河の溶け水が流れ出す音がありました。

幸運にも、パタゴニア地方に生息するフクロウに出会いました。世界最小らしく、手のひらサイズで本当にかわいい。
幸運にも、パタゴニア地方に生息するフクロウに出会いました。世界最小らしく、手のひらサイズで本当にかわいい。

 
アウトドアメーカー、パタゴニアのマークの基となった山、フィッツロイと念願の2ショット。
アウトドアメーカー、パタゴニアのマークの基となった山、フィッツロイと念願の2ショット。

 
道中、時折民宿で体を休めます。暖炉で料理を作れることが、大きな楽しみのひとつでした。
道中、時折民宿で体を休めます。暖炉で料理を作れることが、大きな楽しみのひとつでした。

太陽を全身に受け、氷河の溶け水を身体中に染み渡らせ、風と土を利き、自分も風となった日々。身体、細胞、原子全てが、惜しみなく呼吸をし、しなやかな生命を育んでくれた期間でした。

ささやかな幸せを、おおきく感じることを思い出したい時には、いまでもこのアラビアータを作ります。

太陽と水と大地と風と、生きとし生けるもの、
そして文明を創り上げてきたすべての先人に感謝して。
いただきます。

奥はる奈

大学で国際関係学を学ぶ一方で、南海地震の減災活動、新潟中越地震支援を行い、スマトラ島沖地震では防災教育事業局長としてスリランカへ足を運ぶ。在学中、メキシコ留学や、アジア・中南米を中心に約35ヶ国をバックパッカーとして歴訪。多国籍料理を独自で学び、自宅で作れる懐石料理から中東料理まで、レパートリーは15カ国に及ぶ。卒業後、危機管理コンサルタントを経て、2014年ロンドン大学院で危機管理を専攻。現在は企業のブランディングコンサルタント兼フードデザイナーとして活動中。
「地のものを、地の水で」「キューバが好き」「一番好きなのは和食」
@bananakitchen Instagram

“Banana Kitchen”によるレシピ連載はこちら
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