フェスがカルチャーを伝え支えるメディアになる #フェスティバルってなんだ 佐々木俊尚さんに聞いてみた<後編>

インタビュー前半で、すでに存在している社会のニーズや世相にフェスティバルは合致しているようだということは分かってきました。しかし、それだけでは社会が変わってきたときに、フェスティバルの人気は下がるだけ…。ニーズを追いかけるだけではなく、フェスティバルが社会に提供できる価値も考えていかなくてはいけません。

佐々木さんは、地域の『関係人口』を増やすために一役買えるのではないかと言います。関係人口とは、観光客以上・移住以下の存在として、地域や地域の人々と多様に関わる人々のこと。地方創生にあたって非常に重要な役割を担うとされ、総務省も関係人口の増加に力を入れています。

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フェスは中世ヨーロッパの村に似ている? #フェスティバルってなんだ 佐々木俊尚さんに聞いてみた<前編>

フェスティバルは、関係人口を増やせるのでは?

「私も東京・軽井沢・福井と多拠点居住生活を続けています。冬になれば、狩猟のために2週間に1度ほど東京の西にある武蔵五日市の駅に降ります。様々な場所の関係人口の一員というわけです。earth gardenが主宰している『Natural High!』にも5年ほど通っていますから道志村の関係人口にも含まれていますね」

毎年5月に、山梨県 道志の森キャンプ場で開催してるNatural High!フジロッカーなら苗場、GO OUT CAMPファンなら富士宮。特定のフェスティバルに毎年通っている人は、その地方の関係人口に含まれると言えるわけです。

関係人口が増えるていくことには、社会的にどのような意味があるのでしょうか?

「人口が減り、空き家が増え、産業も少なく、閉塞感が漂う地方は少なくありません。そういう地域では、住民だけではどうしようもないような状況になっています。一方で、突然やってきた移住者には、抵抗感がある住民もいます。関係人口は、移住者と住民との関係性をつくる『テスト期間』として、ほどよい距離感なのではないでしょうか」

国土交通省の発表によれば、三大都市圏に住む若者は4人に1人が地方移住に関心があるそうです。しかし、実際にやってみるとすれ違いもあります。移住に伴うリスクを軽減するために、関係人口という関わり方が有効というわけです。

「増えていく空き家をリノベーションして、移住者向けの住宅にしたり、ゲストハウスとして貸し出したり。都市に住む人が持っているノウハウや、アイデアを生かせる場が、地方にはまだまだあります」

フェスティバルはカルチャーを伝えるメディアであり、カルチャーを支えていく

フェスティバルが提供できる価値として佐々木さんがもう一つあげてくれたのが、カルチャーを支えるメディアとしての役割です。

「これからの社会の広がりは、Horizontal(水平方向)と、Vertical(垂直方向)に分かれていきます。流通を例に考えてみると、Horizontal代表は『イオン』です。多様な商品を並べ、多くの人のニーズを満たし、膨大な購買行動を分析することで合理的な判断を下していく。音楽で言えば『Spotify』や『Apple Music』はHorizontalなビジネスモデル。過去の視聴データとビッグデータを解析して、最適なレコメンドを出してくれます」

自分の好みを把握してくれたサービスを使っていれば、自分の好みの音楽に日々出会うことができます。しかし、そこにあるのは、過去の自分の延長上にある新しい情報との出会い。

「Vertical代表は『成城石井』です。普通のスーパーには無いようなラインナップや出店場所で、特定の人に深く愛されています。音楽の世界では、小規模なフェスティバルやライブハウスはVerticalなビジネスモデルと言えるでしょう」

人の温度を感じるセレクトや、過去の自分の延長上にはあり得ないものとの出会い。それはまさしく未知との遭遇です。

「雑誌もそもそもは非常にVerticalでした。マーケティングの要素は薄く、編集長が『俺が好きなモノはこれだ!』と言って雑誌をつくっちゃう。その世界観に共感した人が買う。普通の人が見ないような映画、聞かないような音楽でも『この曲がかっこいいんだ!』言い切ってしまえば、それが注目されました」

『POPEYE』は1970年代後半のアメリカ西海岸のスタイルを広め、『Olive』はファッションやライフスタイルにこだわりを持つ『オリーブ少女』を生み出しました。

しかし、雑誌を取り巻く環境は変わりました。マーケティング的になり、売上も下がってしまった。

「リーマンショック以降生まれた、クラフトビール、サードウェーブコーヒーというようなポートランド的なものや、ミニマル、家飲みのような今の若者の行動を、カルチャー視点から支える雑誌はあまりありません。こういった現在進行系のカルチャーを伝えるメディアのひとつとして、フェスティバルは価値を発揮できるのではないでしょうか?」

情報が乏しい時代には、雑誌というフォーマットに所狭しと詰め込まれた情報を若者が読み、カルチャーが浸透しました。

しかし、現代は情報があり過ぎる時代。1日もしくは複数日、人々をその場に留め、会場で繰り広げられる様々なコンテンツをどっぷり体験してもらうフェスティバルというフォーマットが、カルチャーを伝え・支えるメディアとして役に立てるかもしれません。

「メディアのあり方はこれからも変わっていきます。これまでは情報を発信するのがメディアの役割だと考えられてきました。しかし、これからはカルチャーや物事を支える装置として機能していくだろうと考えています。中心となるモノや思考があり、それを好きな人がいて、ウェブや紙、プレイリスト、映像、衣食住など、様々な媒体を通じて、そのものが持つ世界を少しづつ押し広げていくようなイメージです」

これからフェスティバルは、ライブ(ステージ)、マーケット、フード、開催場所などを通じて、特定のメッセージを伝えることができるメディア(媒体)としての役割を担うことができるかもしれません。

「単純に告知して来てもらうのは、前時代的なフェスティバル。メッセージを持ち、その世界を形成する空間を継続的につくっていくのがこれからのフェスティバルなのではないでしょうか」

これだけ数多くのフェスティバルが開催されている時代です。フェスティバルは、社会に対して大きな役割を担っています。一つひとつのフェスティバルが、果たすべき役割を意識して実践した時、エンターテイメントだけじゃない価値をいたるところで発揮できる可能性がある。

2019年のearth gardenは、1年間を通じて「 #フェスティバルってなんだ 」というテーマに取り組んでいきます。フェスティバルの未来を探す旅に、ぜひ読者の皆さんも参加してください。

写真:須古恵

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佐々木俊尚

ジャーナリスト。SUSONO運営。NHK「世界へ発信!SNS英語術 」文化放送「News Masters」。総務省情報通信白書編集委員。福井県美浜町多拠点活動アドバイザー。東京長野福井の3拠点移動生活者。

Twitter https://twitter.com/sasakitoshinao