僕は学生の頃から、HIPHOPという音楽が大好きで、今でもよく聞いている。1970年代にニューヨークの貧困地区で生まれた音楽で、ストリートで音楽を鳴らし、パーティーをDIYしていく中で、ダンスやDJ、グラフィティやラップバトルが生まれていった。貧しいから、公共の場所を使い、DIYで場を作った。実のところ、HIPHOPと公共の概念は、ずいぶんと親しい場所にある。
僕たちが主催している季節ごとのearth gardenは、代々木公園で開催している。渋谷と原宿をつなぐケヤキ並木は、公園内でありながら道としての役割も持ち、公共性の高い場所だ。earth gardenに来るという目的を持たず、散歩やデートで代々木公園に来て、たまたまearth gardenのことを知る人も大勢いるはず。そういった意味で、公共というキーワードを挟み、HIPHOPはearth gardenとつながる。
earth gardenというと、ジャムバンドやロックなど、いわゆる野外フェスらしい音楽が鳴っているイメージがあると思うが、ここ2年ほど、HIPHOPも混ざりだした。カギになっているのは、グリーンエナジーステージの制作に協力いただいているDJのAUTOだ。今回は、アースガーデンにも出演経験があり、戦極MCバトルにて活躍しているラッパー田中光と共に、HIPHOPから見える街の風景を話してもらった。
ふらっと代々木公園に遊びに来ると、音楽が流れている
AUTO アースガーデンっぽい音楽を基準にするのではなく、野外で聞いたら気持ちのいい音楽を基準にアーティストのブッキングをしています。クラブミュージックなんだけど、夜のイメージではないというか、そういった良い音を聞いてほしいなと。
田中 そうか、そういうことなんですね。正直、僕のリリックが、外で響いていくイメージを持てなかったんですが、実際ライブをしてみると、お客さんは結構聞いてくれて。PVも撮影させてもらえたし、自分の予想よりもはるかに、相性がよかったなぁと思います。
田中光 / purity (pro. LIBRO)
AUTO ふらっと来てくれる人も多いから、逆にどのジャンルが好きとか嫌いとか、そういう意識はないのかもしれない。クラブだとオールナイトのイベントが多いし、エントランス料金もかかる。earth gardenは入場無料だし、昼間に音楽が聞けるから家族で来れる。そういう場所って実は少ないんだよね。
Auto&mst / @Natural High! 2015
田中 学生時代の友達が数人、earth gardenに見に来てくたんですよ。覚えてる?みたいな会話から始まるくらい久しぶりな友人たちで。それもearth gardenならでは、ですよね。
AUTO イギリスのロンドンで行われるノッティング・ヒル・カーニバルってお祭りでは、街中にサウンドシステムや、サウンドシステムを載せたトラックが出て、自分の好きな音の場所で踊ったりするらしい。日本だと規制もあるからそこまで派手にはできないからこそ、代々木公園で音を鳴らせる場は大事にしたいよね。
ストリートの音楽 HIPHOP
田中 HIPHOPでは、最近、各地にサイファー(ストリートや公園などに集まって、即興でラップをし合う場)がありますね。渋谷サイファーとか、新宿サイファーとか。僕の地元の木更津にもあるようです。ぼくは行ってたのは、10年くらい前だと思います。今みたいに各地にあるわけじゃなくて、日曜日の夕方16時頃に渋谷に行くとやってるらしいってことで、色んな場所から集まってましたよ。ラッパーっぽいやつが立ってると「ラップやってますか?」「やってます」みたいなかんじで。ラップは道具がいらないから、人が集まればそれだけで楽しめるんですよ。
AUTO フリースタイルダンジョンや高校生ラップ選手権(ともに、テレビ番組)が流行ってるおかげでもあると思うけど、息子とお母さんでラップバトルしたりするらしいよ。親子間でバトル。これって何も道具がいらないからできることだよね。
田中 いいですね、それ。フリースタイルや即興は、遊びの面が強いから、楽しみやすいのだと思います。しりとりみたいなものかもしれません。
AUTO 僕が住んでる北千住のほうでもサイファーをやってるね。その横でスケーターが滑ってて。
田中 ラッパーも、スケボーも、コミュニティがありますよね。
その街にしかない”ノリ”がある
AUTO そういう集まりの中で、音楽を知っていったりするよね。センパイから教えてもらったり、憧れのセンパイが聞いている音楽を聞きたかったり。
田中 僕が育った街には、DJバーが1つだけあって、そこでやってたパーティーにずいぶん通いました。それぞれの街の遊び人から教わるカルチャーってあると思うんですよ。いろんな場所でライブしますけど、その街のDJのプレイを聞くのがすごく楽しくて。その街にしかない”ノリ”があるんですよね。
AUTO その街の遊び人たちが「これかっこいいよね」って言ったスタイルが、その街で熟成されていくかんじだよね。アメリカだと西海岸っぽい、東海岸っぽいHIPHOPってあるけれど、日本の中でも街の音楽が育っていくと、面白いだろうなぁ。
オープンエアな場所での音楽は、規制があったり、クレームがついたり、難しいことも多いけど、落とし所を見つけられれば、街の中の楽しみが増える。街からにじみ出る音楽は、料理の味を作る調味料のように、その街に一味を加える。ぼくは、音楽が街にあふれる未来がいいなと思う。
Auto
Composer/DJ。エフェクターやサンプラーなどを使用し、リアルタイムで音を変化させていくことに拘るDJやPCやハード機材を使用したLIVE、楽器奏者とのセッションなど様々な形態での活動を行っている。Natural High!、りんご音楽祭、EarthGarden、温泉音楽、Tokyo Outdoor Weekend、Oneness Camp、あわのネなどのフェスティバル、新島Wax、犬島jamboreeなど離島での野外イベントまで各地でDJ/LIVEを行う。
http://tentweb.jugem.jp/
田中光
千葉県館山市出身のラッパー。夜な夜な遊んでいた10代の頃に、HIPHOPと出会い音楽活動を開始。以後、自身の表現を探求し、様々なシーンで活躍の場を広げている。心地よいと評されるテクニカルなフローを武器に、楽曲と即興を織り交ぜるLIVEは、普遍的なテーマと音楽愛をかかげ、見るもの全てをステージに引き込む。また、哀愁溢れるリリックとシーンでは珍しい風貌もあいまって、参加した大会では「詩人」の異名を得ることにもなる。
https://twitter.com/hikaru__tanaka