あれは若気の至りだった。学生のころ、彼女がいたにも関わらず、仲のいい女の子といい感じになり、あぁ、どうしたもんかと考えていた時期がある。結局、僕は答えを出せず、程なくして彼女にフラれ、仲の良い子とも気まずくなってしまった。今思うと、別れかたが下手だったなぁと思う。
選んだもので、未来ができる。別れたもので、人生ができる。
2016年の秋から、自主上映会を中心に話題になっているドキュメンタリー映画がある。「別れかた 暮らしかた」というタイトルのこの映画は、毎年600万人が参加する「100万人のキャンドルナイト」の運営とクリエイティブを担当し、広告制作業を生業とする傍ら、暮らしにまつわる常識を見つめ、作り直す冒険中の伊藤菜衣子さんの監督作品。
自転車の移動販売で人気の鎌倉のケーキ屋「POMPON CAKES」の立道嶺央さん。東日本大震災後に福島から札幌へ引っ越し、農業とカフェをはじめた「たべるとくらしの研究所」の安齋伸也さん、安齋明子さん。熊本で不要なものをリサイクルしながらオーガニック栽培の農場「のはら農研塾」の野原健史さん。この3組の生きかたを淡々としたトーンで描き出す。キャッチコピーにはこうある。「選んだもので、未来ができる。別れたもので、人生ができる。」
2016年11月に終わりに、松陰神社のカフェ「STUDY」にて行われた上映会では、出演者の立道さんに加え、中目黒の「ONIBUS COFFEE」や、道玄坂の「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」など都内で4店舗を運営し、サードウェーブコーヒーのおいしさを伝える坂尾篤史さん、会場となった「STUDY」のオーナーとして最近の松陰神社ブームの火付け役であり、立道さんや坂尾さんの店舗デザインも手がけた鈴木一史さんの3人と伊藤監督とのトークセッションも行われた。オシャレな雑誌やウェブに幾度となく登場する人気者たちによるトークは1時間ほど行われたが、その中で印象的な話を紹介したい。
立道 撮影してもらったのは3年前。映画の中では、『何千万円も借金をしていわゆるケーキ屋さんを作るのは自分には合わない。』とスモールビジネスについての話をしているのですが、今、何千万円も借金をして、お店をオープンさせました(笑)最終的には、もう一度、スモールビジネスに戻っていくつもりですが、現状、自分だけではやりたいことができないという予測や、チームを作ってチームのみんなと幸せになるスキームを考えて出た答えがお店づくりなんです。でも、規模が大きくなることで生まれる悩みは多くて…。
坂尾 僕も商売の規模に関しては難しさを感じています。いい豆を育ててくれる農家さんを応援したいから、お客さんへの提供もなるべく大きくしていきたい。なるべく多く豆を買いたい。ただ、そうやって頑張っていくと、スタッフが疲弊していってしまうんです。それにスタッフに家族ができたとき、その家族も含めて支えていくだけの収益を作っていく必要があるし、そういった意味でのプレッシャーは大きいです。
鈴木 ぼくは独立したときに自分が納得のいく仕事しかしないって決めたんです。ということは、出会いがないと仕事がない。これまでは偶然やってこれているけど、この先も同じようにいける保証はなくて、どうすればいいんだろうっていうのはいつも考えていて。この映画はみんな、東京以外の場所で生きる人を描いていて、そこに憧れはあるけれど、東京には仕事もたくさんあるし、東京から離れられないという葛藤もあります。
何と別れ、どう暮らすか
メディアの露出も多く、華やかで、順風満帆に見える3人。本当にステキな3人だ。だからこそ、そういった人に、僕たちは答えを求めがちである。しかしながら、彼らは決まった答えを生きているわけではない。それぞれのレイヤーで無数に悩みは存在するし、むしろ一歩を踏み出せば、踏み出した分、責任やプレッシャーは大きくなり、重くなる。そういった重みを外していく作業が「別れる」と言えるかもしれない。映画の中の3組の登場人物も、それぞれ、何かしらと別れることによって、今を生きている。
別れたあとの軽くなった体なら、一歩も大きく踏み出せる。その先に未来があるのであれば、別れることを真剣に考えるのも悪くない。答えはすぐに出さなくてもいいが、あまりに遅れてしまうと、選択肢自体が狭まっていく。高校生の頃の僕の経験は、良い教訓だ。何と別れ、どう暮らすか。映画を見るとヒントが見つかるかもしれない。
重く凝り固まった頭と体の中から、何と別れるか、どう暮らすか、そんなことを考えながら、ぜひ見てほしい映画だ。
映画『別れかた暮らしかた』 上映会&トークイベント @ 渋谷ヒカリエ
日程:2017年10月5日(木)
時間:19:30〜
場所:渋谷ヒカリエ 8階 COURT
料金:2000円 ※2名以上で予約でお一人様1500円
申し込みはこちら
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