僕が冬に一番恋しくなるものは、温泉旅館。湯けむりモクモクの露天風呂に入り、美味しいごはんを食べて、気持よく酔っぱらい、そのままグデーっと寝て、早起きして、朝風呂に入る。そんな極楽浄土に音楽フェスがドッキングしちゃうなんて、もう最高じゃないですか!
今回は、テレビ局でのディレクターを本業としながら、福島の温泉フェス「Arafudo Music(アラフドミュージック)」に関わる山登宏史さんにお話を伺いました。
「元々フェスが好きだし、大きなフェスの開催に関わっている友達もいて、人のつながりもあったので、やれる条件は揃っていたんですよ。さらに、温泉だったら、天候も関係ないし、飲食出店がなくてもごはんがあるし、ステージを作らなくても音響機材と音響スタッフさんがいてくれればライブができる。チケット販売とブッキングがなんとかなればいけると思いました。」
開催地である福島県土湯温泉は、16軒あった旅館のうち、5軒が廃業。お客さんも年々減っているそうです。そんな状況を本業の取材を通して知っていた山登さん。”なんとかしなければいけない”と考えていた温泉街の若旦那たちと、一緒に来場者が宿泊するフェスを考えました。
しかも、温泉ユニットとして気持ちいいサウンドを奏でる「ビッケとカツマーレー」にtwitterで提案したら、ぜひとも出たいといってくれたそうで、とんとん拍子に1回目の開催が決定。2014年の1月に1回目を開催し、2016年の開催で3回目となります。
ここでしか見れない景色、ここでしか吸えない空気
「1回目の開催のときは、アンコールで僕がステージで歌わされましたからね(笑)終わってホッとしていたら”呼ばれてるよ”って言われてステージで『今夜はブギーバック』を歌わされるっていう(笑)2年目は断りましたけど。」
山登さんは、ここでしか見れないもの作りたいと言います。アーティストも程よく酔っ払って楽しそう。来場者もスタッフも笑顔。
「bonobosの蔡さんは、傘でこけしを回してましたから(笑)熱心なファンの方に”あんな蔡さん見たことないです!”って感想をもらったのは嬉しかったですね。」
宿泊プランの中には、1人で来ても良いように、相部屋があるそうです。2015年の相部屋メンバーはとても仲良くなり、今年はそのメンバーで1部屋予約して参戦してくれるとか。
「お客さんじゃなくて、仲間なんだなって。BBQをやって会費をとるぐらいな気持ちで、イベントをやって入場料をもらっていて。本当に手作りのイベントです。」
福島に来たくなるような楽しみ
「このフェスの1番の目的は、福島にもう一度来てもらうきっかけをつくること、だと思っています。チェックアウト後に、若旦那がまち歩きツアーを開催してくれたり、南相馬の農家民宿で藍染めをしているお母さんたちに来てもらって藍染体験をしてもらったり、1日1組しか受け入れないいわきのシェフに来てもらって料理出してもらったりもしています。それは、今回、福島に来てくれた人にもう一度福島に来てもらいたいからなんです。」
山登さんが東京から福島に赴任することになったのは、東日本大震災から2年後。赴任当初は、原発事故のことに詳しいというほどでもなく、少し不安もあって、そこからいろんなことを学んで、今思うことがあると言います。
「外から見る福島と、住んでいる人から見る福島の温度差は、とても大きいです。それをなんとかしたいっていうのは、仕事でも、アラフドミュージックでも一緒です。音楽は入り口でしかなくて、その先にどうつなげるかということを考えています。」
「”福島って本当はどうなの?”ってよく聞かれるんです。その質問のウラには”本当は危ないんでしょ?”っていう本音を感じます。それがすごくつらい。こういうことを、福島の人は震災以降ずっと感じてきたんだなって。」
山登さんは、震災3日後に石巻に入ったそうです。
「あれはきっと忘れないでしょうね。忘れならない静止画が何枚かあって、度々、その記憶が蘇ります。なにか言われている気がするんです。あのとき、”現地の人はこんなに大変です”って映すことはできたけど、その人が幸せになるために何が出来ただろうって、今でも考えます。だから、今いる福島で返せるものを返していかなきゃって。」
“ここでしか見れない景色”には、様々な意味があるのだろうと思います。それも含めて、みんなで楽しんで、飲んで、騒いで、また福島に行ければ最高じゃないですか。ちなみに、今年はすでにチケットはソールドアウト。2017年の開催を楽しみに待ちましょう。
Arafudo Music ’16
日程:2016年1月30日(土)
場所:福島県 土湯温泉町