今、日本中で季節を問わず、様々な規模の音楽フェスティバルが開催されています。ちょっと多すぎるのでは?と思うこともしばしば。しかし、これだけ増えているということは、社会的なニーズや世相を反映していると言っていいでしょう。現代社会がフェスティバルに求めているものとはなんでしょうか?そして、フェスティバルは社会的にどんな役割を果たせるのでしょうか?
「フェスティバルってなんだ?」というテーマを掲げるにあたり、まずはじめに話を聞きたいと考えたのは、ジャーナリストの佐々木俊尚さんでした。広く社会で起きている事象に精通しつつ、earth gardenが主宰するフェスティバルに何度も遊びに来てくれていて、音楽も大好き。そんな佐々木さんに、フェスティバルの今と未来を聞きました。
ひとりでいたいけど、一体感もほしい。そんな複雑な現代人
「おそらくフェスティバルは、現代の2つのニーズを満たしていると思います。1つは身体性。つまり体験を伴う良い意味での面倒くささです。2015年、中目黒に『Waltz』というカセットテープのお店がオープンしました。先日、取材に伺ったのですが、話を聞くと若いお客さんがずいぶんと来ているそうです。そこには身体性を求める人々の心があります」
世代を超えて愛されているカセットテープ。どのような理由があるのでしょうか?
「音楽の定額配信サービスによって、以前にも増して、自由かつ気軽に音楽を聞けるようになりました。だからこそ、ケースからカセットを取り出し、デッキに挿して、再生ボタンを押すという行為自体に価値が生まれているのです。昔はあの手順が煩雑だったのに、今は煩雑さが愛おしいと思える時代になりました」
音楽を聞くためにわざわざ移動する。大音量を身体全体で受け止める。フェスティバルの音楽体験と不可分な身体性が、今の人々のニーズに応えているというわけです。
「もう一つのニーズは、ひとりで参加できて、適度な一体感も味わえるところにあると思います。スポーツで考えてみましょう。サッカーや野球の人気は相変わらずありますが、ランニングや自転車、登山など、個人でスタートできるスポーツの人気が増しています。ランニングなら、ひとりで黙々と走り込むこともできますし、地域やコミュニティにあるランニングクラブで団体で走ることもできる。ひとりの気軽さも、団体での一体感も楽しめます。フェスティバルはライブを見ているときには、会場での一体感も味わえるけど、自分のテントサイトでダラダラしていても良いという自由さがあります。都市型フェスはひとりでも行きやすいですし」
『居心地の良さ』がキーワード
佐々木さんは『居心地の良さ』に社会的なニーズがあるのではないかとも考えているそうです。
「東日本大震災のあとくらいから、オシャレでカッコよくて有名店がたくさんあるような街だけでなく、まったりしていて居心地のいい街の人気が上がっています。例えば、東京なら西荻窪、三軒茶屋、松陰神社前、梅ヶ丘…。こじんまりとしていて、小さなお店がたくさん集まっている街です。比較的小さな規模のフェスティバルには、これらの街と同じような役割があるのではないでしょうか?」
立ち並ぶマーケットを巡り、クラフトビールを飲みながらブラブラして、お店の人との会話を楽しむ。気がついたらステージから音楽が聞こえてきて、ライブを見る。お腹が減ってきたからご飯を食べて、またブラブラしに行く。そこで過ごす時間が心地よくて、ずっといたくなるような場所と考えれば、確かにフェスティバルは街のようです。
そもそも野外フェスティバルには、居心地を良くする、空間としての構造があると言います。
「中世ヨーロッパの村では、大きめの広場があって、食べ物が売っていたり、お店が並んでいます。その周りにシティホールや役所や協会が配置されている。広場に行けば、何かしらやっていて、誰かに会える。人間がそもそも持っている共同体感覚や集団生活を営む上で必要となる空間そのものが、フェスティバルにはあると思います」
実際にどこかへ行って、自分自身が体験することを重視する近年の身体性へのニーズ。1人で行動したいのに、一体感もほしいというアンビバレント(同じ対象に対して、相反する感情を同時に抱くこと)な心。東日本大震災のあとから増えてきた居心地の良さを求める人々の需要と、フェスティバルが持つ構造的な特徴との合致。
このように、近年のフェスティバル人気には、社会的な視点からも、理由を見出すことができそうです。
写真:須古恵
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佐々木俊尚
ジャーナリスト。SUSONO運営。NHK「世界へ発信!SNS英語術 」文化放送「News Masters」。総務省情報通信白書編集委員。福井県美浜町多拠点活動アドバイザー。東京長野福井の3拠点移動生活者。