2019年6月、イギリスで開催される世界最高峰の野外フェス「グラストンベリーフェスティバル」に行ってきました。何もない牧草地に13万5千人もの人が集まり、ライブやDJ、アートなど多様なコンテンツで楽しみながら、5泊あまりを過ごす、壮大な遊び。感動し、ぶっ飛び、疲れ果て帰ってきました。
帰国して数ヶ月、今でもクッキリと脳裏に残っているシーンがいくつもあります。その一つがYEARS & YEARSのライブ。ボーカルのオリーのスピーチが素晴らしくて、自然と涙が溢れてきた。今回はそのスピーチを書き起こし、日本語訳してみた。
YEARS & YEARSとは、UK発の3人組エレクトロポップ・バンド。日本でも人気は高く、2018年はフジロックフェスティバルで一番大きなグリーンステージに登場していますボーカルのオリーは、ゲイ。どうやら、デビュー時はカミングアウトしないほうがいいとアドバイスされたらしいけど、今では堂々とゲイであることを公言しているし、恋愛に関する歌詞に臆せず「He」を使っています。
10万人が収容できると言われている巨大なフロアを有するグラストンベリーフェスティバルのメインステージ。盛り上がる観客を前に、オリーは静かに語り始めました。
https://twitter.com/BBCR1/status/1145364380080627714
ボクは長いこと、自分がゲイでなかったらよかったのに、と思ってきた。自分自身のことを恥じてきたんだ。そんな過去を埋め合わせるために、ボクはここでスピーチをする。数多くのレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの人々が自分たちの権利のために戦ってきたからこそ、今この場で僕はゲイである自身の事をみんなの前で語れる。
ボクたちは、LGBTとか、LGBTQ+って呼ばれている。個人的には、Queerという言葉が好きなんだ。スクリーンに映し出されているように。 Queerという言葉を多くの人は嫌っている。なぜなら、多くの痛ましい歴史を含む言葉だから。ボクたちが好きだろうと嫌いだろうと、歴史は重要だよね。
ニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」に警察のガサ入れが入ったあとに起きた暴動と抗議行動から、今週で50年を迎える。既に君たちはストーンウォール暴動について聞いたことあるかもしれないね。黒人のトランスジェンダーの女性に導かれて、様々な有色人種の人々が参加した暴動は、歴史的な瞬間だったはず。あのあと、世界は50年をかけて大きく変わった。
ボクたちの歴史が、今の自分を構成している。個人的な歴史、家族の歴史、文化、社会、政治…ひとり、ひとり、違う歴史を多く抱えている。そしてたくさんの異なる歴史が日々作られていく。人々が多様であることと同じくらい、LGBTの人々の生活も多様だけど、彼らは現実的な脅威にさらされている。ストーンウォールの暴動から始まった戦いは、今も続いているし、明日も、その先の未来も続いていく。
でもね、未来は決まっていないんだ。ボクたちの歴史が、明日のボクたちに何をもたらすのかなんて分からない。これまでの歴史から、明日、何をするのか予測することもできない。だからこそ、誰もが歴史を変えるチャンスを持っている。ボクたちは、歴史を毎日変えていける。世界を変えたいのであれば、ボクたち一人ひとりの行動にかかっているはず。人種差別との戦いが終わらなければ、能力主義との戦いが終わらなければ、偏見との戦いが終わらなければ、気候変動との戦いが終わらなければ、真のLGBTの平等はないはず。
どうやってそこにたどり着けばいいのか、正直わからない。でも、誰かを置き去りにせずに社会を変えていくために、みんなが互いに助け合う必要があることは分かっている。そういうことを伝えることが、今、ボクがしなくてはいけないことなんだ。もし、僕たちの未来が安全で優しい未来であってほしいと考えるなら、僕たちは…ごめん。言葉にしずらいけど、これがボクの心をざわつかせる理由なんだ。
ボクたちは、今、グラストンベリーのピラミッドステージでプレイしている。これはボクの経験において、本当に決定的な瞬間。だからこそ、みんなに伝えたかった。ボクとみんなが持っているお互いへの尊敬と思いやりを、世界に示したかった。ボクたちは、誰であろうともお互いを支え合い、お互いの意見に耳を傾けることができる。世界を優しく安全な場所にしたいなら、歴史から学び合わなきゃいけない。だって、戦いが終わっていないから。
たくさんの人が、何かを信じて一緒に行動を起こせば、やがて変化が起こる。実現不可能なことなんてないんだ。ボクは、そう信じている。
YEARS & YEARSライブの最後には、レインボーの紙吹雪が舞いました。
だから僕はフェスティバルが好きなんだ。