潮干狩りと言えば干潟が大きく現れる春の遊びですが、実はコレ、厳冬期にも楽しめるんです。次の満月は、ぜひミッドナイト潮干狩りへ!日本人が「日本人」と名付けられる以前から、私たちの祖先がもっとも親しんできた漁労が潮干狩り。特別な道具や技術、力がなくても行なえることから、古代の日本人はタンパク質の多くを貝から得ていたようです。東京湾の大森貝塚のように大規模な貝塚がみつかることからもそれがわかります。
潮干狩りとはちょっと離れますが、中国の古い歴史書「魏志倭人伝」には「和水人好沈没捕魚蛤」という一文があります。これを超訳すると「日本人は潜るのが好きで、魚や貝をとっている」とでもなるでしょうか。魏志倭人伝が原日本人に触れているのはごくごく短い文なのですが、そのなかでも魚貝の漁について特別にとりあげて書いているのですから、その頃の日本人は、よほど貝にお世話になっていたのでしょう。
桃の節句(旧暦の3月3日)も、実は潮干狩りと深いかかわりがあります。旧暦の基になっているのは太陽ではなく、月。28日周期で満ち欠けを繰り返す月の大きさがそのまま暦になっているため、潮の干満と暦が常にシンクロしています。
旧暦の3月3日は、太陽暦と照らすと、ひと月ほどの幅で日にちが前後しますが、必ず、この日は春の大潮にあたるようになっています。水が温んで、その年はじめて出漁を祝ったことが、のちにほかの民俗信仰と結びついて、ひな祭りになったという人もいます。土地によっては、桃の節句に蛤の椀を食べたり、貝合わせをするといった習慣もありますよね。沖縄では「浜下り」といってこの日に女性が集まって磯遊びを楽しみます。
さて、さて、前置きが長くなりました。なんで季節はずれのこんな時期に、日本人と潮干狩りの深い関係を説いているかと申しますと、潮が下がらないはずの冬にも、潮干狩りが楽しめることを紹介するためなんです。
さきほど、潮は月の運行とシンクロしていると書きましたが、何も春だけ大きく潮が下がっているわけではなくて、晩秋~冬にも潮が大きくさがっています。でもそれがあまり知られていないのは、この時期の干潮が真夜中に訪れるから。
潮の満ち干には「起潮力」という力が働いており、この力は月や地球、太陽、公転周期などのさまざまな要因が関係しています。この力大きく作用するのが晩春と晩秋。春はお昼に大きく潮が下がるのに対し、秋は真夜中近くに干潮を迎えます。
つまり、今時分の大潮に海にいけば、春と同じように潮干狩りが楽しめるのです! 必要な道具は春とそれほど違いません。厚着をして、ヘッドランプを装備すれば準備OK。競合する家族連れの猛攻にあっていないため、冬の干潟ではまず、大漁が必至です。
多くの生物の出産や産卵のタイミングには月の満ち欠けが影響を及ぼしています。人間だっておんなじ、私がお世話になった助産師曰く、大潮の近くや、干潮、満潮のタイミングで子供が生まれることが多いのだとか。また、聞くところによると、満月の夜のナンパは、そうでない日の数倍の成功率なのだとか。英語にはルナティックなんて言葉もありますよね。冬の大潮、なんだか心がざわついちゃったら、それは月に体がよばれた合図。そんな晩は熊手片手に干潟へGO! 太古の昔から受け継がれた狩猟本能を再確認し、収穫の喜びに震えましょう。人間だって、けだものだもの!(文=密お)