私が台所に立って、まな板の上の野菜をニッコリ見下ろしながら、思っていること。それは、「旬な野菜って、ほんとにきれい！」です。
野菜や果物がきれい？・・そう思ったこと、あるでしょうか？料理好きな人ならば、きっと思ったことがあると思います。あまりにも野菜がピカピカしているのをみると、私はついSNSで、その美しさを友だちにもみてもらいたくなって投稿してしまいます。ピーマンとかトウモロコシなど夏野菜は元気いっぱいだし、冬の大根や白菜などはしっとり美人。あ〜きれいだな〜と思います。
詩人の白井明大さんが書かれた『七十二候の見つけかた』という本は、たとえば、私が野菜がきれい〜といったような、なんてことのない“ふだん”のエピソードを、それぞれの季節の有り様と共につづったエッセイです。
「丁寧に暮らす」といった言葉をここのところよく耳にしますが、ちょっと違います。白井さんの詩もそうですが、誇張していうなら、暮らしぶりのその成果や素敵さを伝えたいのではなく、そこにただあった・・そういう景色や記憶を、そっとおさめた本です。
タンポポの綿毛にやさしく息をふきかけて、綿毛が空に飛んでいくのを見守っている数秒、何故かいつもより少し時間がゆっくりと感じるものですが、この本を読んでいるときも、それと同じような気持ちになります。
さて、タイトルにある“七十二候”が何かというと、季節のこよみのことです。まず、誰でも知っている春夏秋冬の四季を、旧暦の春分や冬至など、二十四の時節に分ける、二十四節季（にじゅうよんせっき）がありますが、それをさらにこまやかな季節に分けたものが、“七十二候”です。今の西暦が取り入れられる前、明治初期までは、畑仕事や自然と共にある日本の伝統行事など、当たり前につかわれていた、本来の季節のめぐりにあったカレンダーです。
“七十二候”に私が興味をもって大切にしたくなるのは、季節を適切に捉えていることだけでなく、そのよみかたに詩のような響きがあるからです。今年の7月7日七夕の日は、二十四節季の小暑ですが、“七十二候”では、「温風至」と書き、「あつかぜいたる」と読みます。なんだか、素敵ですよね。
他にも例えば、「虹はじめてあらわる」「霜やんで苗出ずる」「かわず(蛙)はじめて鳴く」「たけのこ生ず」「霜はじめて降る」「鹿角おつる」などなど、どれだけ日本人の暮らしが自然と共にあったのかを考えると、もううっとりします。
暮らしぶりは変われども、昔も今も、誰のもとにも平等に季節の巡りはやってきています。そんな七十二のちいさな季節の移り変わりと共に、白井さんの“ふだん”が、すっと心に溶け込むような一冊です。
この本をきっかけに、自然と離れた暮らしぶりでも、日本の季節の小さな変化や巡りを、あなたに実感してもらえたら、私もとてもうれしいです。
七十二候の見つけかた
白井明大／飛鳥親社
http://www.amazon.co.jp/dp/4864103933/ref=cm_sw_r_tw_dp_3u9Kvb039RRAJ
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