こんにちは。青年海外協力隊員として西アフリカ・セネガル共和国にて活動させていただいている、山口織枝と申します。今回は、セネガルの人が日常の中でよくしているやりとりについて。
「贅沢している?」 「贅沢しなよ!」
この連載のはじめの方にも、セネガルの人の長い挨拶について書かせて頂きましたが、日常的に頻繁に耳にするやりとりがあります。それは、「ヤンギノース?」「マンギノース」という応答です。
少しマニアックな(?)話になってしまうかもしれませんが、ヤンギ(Yaangi)〜 というのは、セネガルで多くの人が話しているウォロフ語で、「あなた(君)は〜する」、という意味で用いられます。そして、マンギ(Maangi)は、「私は〜する」という意味です。「ヤンギノース?」は、「(あなたは)贅沢している?」というような意味で、「マンギノース」と答えたら、「しているよ。」という返答になります。
これはとてもよく聞かれる言葉で、もし、「ノースマ(してないよ、という否定の意味)」や「トゥティレック(tuuti rekk)(少しだけ)」と言ったら、「ルタッ?(lutax?)(何故?)」と聞かれたりします。
そして、「ノーサル!(贅沢しなよ!)」と力強く、言われたりします。逆にこちらが聞き返して、セネガルの人が「ノースマ ダラ!(dara!) アムルハーリス!(amlu xaalis!)(全然してないよ!お金無い!)」と嘆かわしい表情で答えられる場合もあります。(切ないです。)
このやりとりには、恐らく、「資材やお金を沢山持っていて、それを存分に使っている」=「良いこと」という考え方があって、贅沢することの素晴らしさを讃えているのだと思います。この連載の初回でも書かせて頂きましたが、セネガルには「テランガ」と呼ばれる「おもてなし精神」があるため、「大盤振る舞い」のような気前の良さが、大切にされているように思います。
フランス語が、ウォロフ語にMIXされている
ところで、この「ノース」という言葉、私はずっとウォロフ語だと思っていたのですが、ウォロフ語の辞書を調べてみてもそれらしい言葉が見つかりません。どういうことかな、と思って、活動先の学校の校長先生にたずねてみた所、何と、これは「noce」という、フランス語でした。
このフランス語はもともと結婚式や婚礼の儀式を指す言葉だそうですが、それが転じて贅沢をする、というような意味合いで使われるようになったようです。セネガルは、フランスの植民地であった歴史を持つため、外来語としてフランス語がウォロフ語の中に組み入れられていたりするのですが、この言葉もそのひとつでした。
興味深いのは、セネガルの人たちはもともと植民をしたフランスの言葉を、ウォロフ語に組み入れて、この「ノース」という言葉など、名詞を動詞にして使っていたり、否定するときに、動詞の語尾に付けるウォロフ語の「私は〜しない」という意味の「uma」という言葉をフランス語の動詞にそのまま付けて、「Comprends-uma(Comprendre=理解する+uma=分からない)」という言葉を使ったりしています。
セネガルで感じる、気前の良さ
少し話が脱線しましたが、「贅沢している?」と聞かれたときに、「お金使っている?(ウォロフ語で、Yaangi lekk sa xaalis?=お金食べている?と言っています)」と聞かれることもあります。
セネガルでは、たとえば小さな商店で何かを買って、お店に細かい釣り銭が無かったときなど、「明日払ってくれたら良いよ。」とか、「明日来たら○○フラン返すから。」とか言われたり、あるいは「(代金は)良いよ」と言ってくれたり、いわゆる「付け」であったり、「マイ(maye)」と呼ばれる、ちょっとした、ものを恵む風習もあります。そんな人と人との間の信頼関係や、気前の良さを尊重する文化を感じるセネガルでは、やはりおもてなし精神が基本にあるのだろうな、と、思います。
日本では昨今、お財布のひもも少し固くなっている人が多いかもしれませんが、「贅沢している?」と聞き合っているセネガルの人のやりとりを思い出すと、少しだけ、懐が温かくなるような思いがするかもしれません。
参考文献:Jean-Léopold Diouf (2003) , ‘Dictionnaire wolof-français et français-wolof’ , KARTHALA.