【インタビュー】哲学のある花束には生きやすさのヒントがある。「旅する花屋 ハヤシラボ」穴澤史雄さんに聞いてみた

テントの中にずらりと並ぶ花は、あまり見たことのないものも多い。その花を次々と選び、ブーケを作っていく。あっという間にできあがるその様は、まるでパフォーマンスのようであり、それ自体がアートだ。事実、「旅する花屋 ハヤシラボ」のブースは常にブーケを求めるお客さんでいっぱい。テントの中で一心不乱にブーケを作り続けているのが、穴澤史雄さんである。

植物が大好きだった祖父の背中を見て育った

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小さい頃、両親が共働きで、学校から帰るのは自分の家ではなく、母方の祖父母の家でした。祖父は植物が大好きで、庭はたくさんの植物で溢れていました。盆栽も2000鉢もあったんです。祖父の庭いじりをずっと見ていましたから、その影響があるだろうと思います。小さい頃は、道端の草花をティッシュでくるんで、プレゼントしたりもしていました。

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「ハヤシラボ」という名前は、お母様の旧姓でおじいさん・おばあさんの姓「林」からつけた名前だそうだ。小さい頃に通ったおじいさん・おばあさんの家の一部を改築して店舗にする予定だったから「ハヤシラボ」。現在はそこをアトリエとして、活動している。元々は固定の店舗を持とうとしていた穴澤さんは、なぜ「旅する花屋」になったのだろうか・

正直、結果的に旅しているだけなんです。元々は、地元の福島でお店を持って花屋をやろうと思っていました。宇都宮の学校で園芸を学んだり、東京や栃木で修行したりして、福島に2010年の12月に帰ってきました。

ただ、福島で花屋の経験がないので、仕入先もわからないし、人のつながりもない。お店を持つのはしばらく難しいかもと思っていたところ、栃木の知り合いのお菓子屋さんが「うちの軒先で花屋をやらないか?」と連絡をくれたんです。やってみたら、思ったより反応がよくて。「珍しい花ね」なんて、花を通じて会話が生まれて、それが面白いなぁと思ったんですよ。

栃木での出張販売から福島に帰ってきてすぐに、あの日がやってきた。3月11日だ。

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地震の後は、生活はガタガタだし、福島市内は自主避難した人も多かったので、花屋なんて開業している場合でもなくて。ただ、うれしいことに4月の頭に栃木のお店からまたオファーをもらったんです。「こんなときにお花なんて、、、」という思いもありましたが、せっかくのオファーを断るのはもったいないと。それをきっかけにイベントでの販売が中心の花屋になりました。

ひとつひとつの花の個性を活かす

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東日本大震災もきっかけとなり、店舗を持つスタイルを目指すことから、旅をしながら花を売るスタイルへと変化したハヤシラボ。earth gardenの出店の際には、穴澤さんのブーケを買いに来た方の列は1日中やむことがない。そして、お客さんの多くは、自分自身のために花を買っていく。

「自分のイメージをブーケにしてほしい」というオファーを受けることがあります。そういうときは、僕が持つそのお客さんのイメージを自分の中に取り込むというか、その人を「肯定」する、認める。それを花に表現します。この認めてあげるという行為はとても大事なことだと思っています。

花って、ひとつひとつ単体でも、十分美しいし、価値があるんです。だから、束にすることで個の価値を殺すことにもなりかねない。そういうのは嫌なんです。こっちから見るとこの花がきれいだけど、反対から見るとこの枝の形が美しいねとか。いろんな方向からじっくりと味わえるし、個の花の美しさを表現したい。

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先日、学校でお花の教室をさせてもらったんですが、先生たちが「花は学校と一緒だね」って言うんです。生徒ひとりひとりの違う個性が全て活きるように、役割がある。ブーケもまさにそうなんです。それぞれ違うところで生まれて生きてきた花たちが、ひとつに収まる美しさ。

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生きづらいときって、認めてもらうこと自体が助けになると思うんです。同意も共感もできないかもしれないけど、ここにいてもいいと認められると生きやすくなる。僕も生きづらさを感じてきましたから花への表現の仕方にもあらわれているかもしれません。2回、3回と来てくれる方がいれば、それは僕自身も認めてもらえたということだと思いますし。

メジャーな花だけでなく、珍しい花にも、道端の花にも興味を持ってほしいと、穴澤さんは言う。ハヤシラボのブーケには華やかさや美しさだけでない魅力がある。明るい部分も暗い部分もある森のようであり、人間の泥臭さみたいなものを感じるのだ。ブーケに対して、そんな感想を持ったのははじめてだった。

生き物は変化する。だからおもしろい

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しばらくは二足のわらじで続けていた穴澤さんだが、昨年から専業となり、ハヤシラボとは別に、表現としての花の追求のために別プロジェクトを立ち上げるなど、どんどん変化を生み出している。その情熱の源はどこにあるのだろうか。

同じ種類の花でも、時期や産地によって状態が違うし、イベントに持っていく間にも状態は変化しています。お客さんに渡すその瞬間が集まったものがブーケなんです。生き物だからこそ、常に状態が変化して、それがおもしろい。

名前に縛られて窮屈になるとしたら、花屋じゃなくてもいいという穴澤さん。これまでの固定概念に囚われないパワーを感じる

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ずっと残るものよりも、無くなるもののほうが好きかもしれません。自分が作ったものを同じ熱量で、その後も愛し続けられるかどうかというと自信がない。生き物は状態の変化があって、いつかは無くなってしまうもの。それに救われることってあると思うんです。

だから、僕自身も花屋から変わっていってもいいと思っています。花屋というと、アレンジメントフラワーやブーケをつくるということをイメージされがちなのですが、植物をつかった人とのつながり方は、それだけじゃないと思うんです。

ハヤシラボのブーケには哲学がある。それは人が生きていく上で、大切なことを教えてくれる。たまには自分自身のために花を買って、自分が活きる場所を考えてみてはどうだろうか。

旅する花屋 ハヤシラボ
http://hayashilab.com/