今年で15回目を迎える「代々木クラフトフェア」。季節ごとに開催しているコミュニティフェスティバル「アースガーデン」の秋のテーマとして、毎年たくさんのクラフトマンとクラフトを愛する来場者さんに参加してもらっています。
この15年で、世の中は大きく変わりました。ありとあらゆる情報がまとめられているインターネット。ものづくりの方法だって例外ではありません。ある人はブログで、ある人はYouTubeで、作り方を教えています。素材だって、珍しいものから高いものまで、インターネットで買える。100円ショップで売っているものを上手に加工する人もいます。
ものづくりが気軽に始められる今の状況は決して悪いことではない。でも、気軽に始められるということは、気軽に諦められるということでもあります。アースガーデンは、簡単に諦めない「クラフトマン」に支えられて、ここまでやってきました。
今回は、アースガーデンに10年以上出店してくれている、まさに「クラフトマン」たちとの対話から「クラフトマンシップ」について考えてみようと思います。話を聞いたのは、マクラメ作家であり、ショップ「異文化の風 さかゑ」のオーナー依田正信さんと、3人組の藍染ユニット「トシュカ」の 荻原久美子さんです。
クラフトマンシップとは
周りに流されず、自分のつくりたいものをつくること
おふたりの話を通じて、クラフトマンシップとはなにか、考えていきましょう。まず、共通してふたりが話していたのは、周りの真似をしたり、時代の変化に合わせてものづくりをしているのではなく、自分自身から湧き出てくる「これをつくりたい」という思いを大切にしていることです。
荻原:昔は草木染めの優しさや、かわいらしさのある色と比べられて「暗いですね」なんて言われたんです。フェスに出店してると「今、青い店の前にいるよ」って目印にされたりとか(笑)。でも、開き直ったんです。それでもいいやって。
3人組のトシュカは、素材選びから、デザイン、染めまでをそれぞれが担当し、持ち寄って販売するスタイル。3人の個性を大切にし、ひとつの枠に収まらない奥行きを持つブランドです。
荻原:自分たちがつくりたいものを好きなようにつくる。それぞれが好きなスタイルを掘り下げる。お互いを否定せず「それいいね!」と一緒に高め合えた3人だったから、これまでも一緒に歩いてこれました。
一方、依田さんはひとりで黙々と突き詰めるタイプ。
依田:ものづくりのアイデアや方向性は、自分にしか問いかけていないです。毎日つづけていると、年に1、2個の「気づき」を得れる。そういう気づきを重ねて、自分自身が納得できるものづくりがしたいんです。なんでもかんでもつくるんじゃなくて、探求するものをフォーカスして、とことん探求していくと、つくるものが変化してくる。でも、どんなものが人気かとか、お客さんの意見は、あんまり気にしないです。
おふたりとも、自分自身に「なにをつくりたいか」を問いかけます。周りは流されない。たとえ、同業者であっても。
依田:マクラメアーティストが100人いたとして、ずらっとみんなの作品を並べても、他の人とは違うって言えるくらい、自分のものづくりを突き詰めています。
荻原:「向こうに似ているのがあるよ」なんて言われて、ザワザワするのも、7、8年ぐらい前に通り過ぎました。今は別に何とも思わないです。自分たちは自分たちです。
クラフトマンシップとは
謙虚に学ぶ姿勢を忘れないこと
周りに流されるわけでも、真似するわけでもない。しかし、周りからの刺激を受けて、学びを深める。これもおふたりから共通して出たお話でした。
荻原:スタートして間もないころ、お客さんから「素材はなに?」とか「ポリエステルが入っているの?」とか「麻じゃないのね?」と問われて、素材のことを研究しました。いろんなことを知るうちに、作品だけでなく、自分自身のライフスタイルにもこだわりがでるようになっていったんです。
依田さんがオーナーをつとめるショップは、今でこそ、自分自身の作品や他のクラフトマンとコラボしたオリジナル商品が並びますが、オープンしてから長いこと、依田さんが惚れ込んだクラフトマンの作品を並べるセレクトショップでした。
依田:オープン時のコンセプトは「作り手を知ることができる店」。作品がどういう工程を経てでき上がったのか、丁寧に紹介していました。毎朝、掃除しながら作品を観察していると、すごく勉強になるんです。「あぁ、なるほど、こうやってつくっているのか」と。毎日、20名以上のクラフトマンの作品を見つめて、日々勉強していたんです。
クラフトマンシップとは
その人が年月を重ねて積み上げた生き様
おふたりとの会話から見えてきたもうひとつのクラフトマンシップ。それは、粘り強く続けること。ものづくりや、学びを繰り返し、継続していくことで、そこには作り手の生き様が表現されます。
荻原:今の時代はインターネットで作り方を調べれば、なんでもつくれます。でも、私たちが始めた頃は、そうじゃなかった。本気でやろうとしたら、なんでもかんでも手は出せません。ひとつに決めて、やり方を探求していくしかなかった。伝統的な抜染にはロウを塗った紙を使いますが、私たちはクリアファイルやクッション材を使っています。ちょっと恥ずかしさもありますが、ワークショップなどでタフに使えて重宝しています。こうやってDIYで自分たちの方法をみつけて、ひとつひとつ積み重ねて、もう10年以上、藍染をやり続けています。
依田さんがアースガーデンに出店するときは「むすび de アミーゴ」という屋号で、マクラメのワークショップを展開しています。フジロックにも2006年から出店。彼らのワークショップに参加していた、という人は意外と多いのでは?
依田:ワークショップの開催は、ライフワークです。生活の一部。昔はカッコいいものをつくってもらえればいいかなと考えていましたが、最近は変わりました。ものづくりの技術的な奥深さに気づいてもらえるようなプログラムを考えています。同じような手法ですが、ちょっとしたことの変化で、模様や形に変化が生まれる。そういった「気づき」が楽しいと思うので。
代々木クラフトフェアには、クラフトマンの生き様が見えるような作品が集まります。それは技術やセンスとして具体的に見えるものもあれば、クラフトマンの話し方やブースから生まれる雰囲気から感じることもある。それは、ディスプレイを通じてはキャッチできません。代々木クラフトフェアに来て、クラフトマンの生き様に触れることで、人生が少しだけ変わるかもしれませんよ。