ある候補者が、党のチラシを駅前で配るが全然受け取ってもらえない。あるアルバイトが、ティッシュを駅前で配ると、どんどん受け取ってもらえる。映画の中で、クスッと笑える対比。だけど、これって笑って済まされることなんだろうか?
前作『選挙』に続き『選挙2』が7月6日に公開されることを受け、想田監督にお話を伺った。
映画「選挙2」監督
想田和弘
相田「選挙は民主主義の土台です。どんなルールで選挙をするかは、どんな民主主義を作るかということだけど、その点をなぜか私たちはスルーしてきた。誰が勝って、誰が負けるかも重要ですけど、そもそもその「ゲームの規則」がどうなっているのか。そこは、もっと問題にされるべきですよね。
前作の『選挙』を撮ったときに、なぜ、私たちはこんなやり方で選ばされているんだろうと疑問に思いました。例えば、立候補者のポスターは税金も使われた公の制度ですけど、実は政策など候補者についての重要な情報を何も伝えないですよね。顔写真と、訳の分からないキャッチフレーズでしょ?明るい政治を!とか、レッツゴー!とかしか書いてない(笑)。よく考えると、あれみて選べっていうこと自体がナンセンスですよね。
私たちは単に票を投じる権利があるだけであって、責任が伴わないような錯覚をしてるんですけど、そんなことはない。民主主義っていうのは、主権は私達一人一人にあるっていう考え方で、主権者というのは判断をする主体ですよね。判断するためには、ある程度政策のことを知っていて、政治家の行動を自分で判断できなければいけない。一般市民にも相当な努力が求められるのが、民主主義だと思うんですよ。
だけど今の選挙制度は、候補者の政策や人柄を吟味する機会として設計されていない。 今度の参院選は、とても重要ですけど、たとえ結果が悪くても落胆しない方が良いと思うんです。もっと長い目で見ていかないと。とにかくゲームの規則に根本的な不備があるので、変えていくには時間がかかる。」
参加しながら、観察する
想田監督が撮るドキュメンタリーは『観察映画』と呼ばれる手法で撮影されている。彼のウェブサイトから引用するに『撮影前に台本を作らず、目の前の現実を撮影と編集を通じてつぶさに観察し、その過程で得られた発見に基づいて映画を作るドキュメンタリー制作の方法論』だ。
これまでの彼の映画は全てこの方法論と形式にのっとって作られているが『選挙』と『選挙2』では少し変化があった。『選挙』では、まるでカメラが空中を漂っているような編集で、映像を見ている限りカメラの存在を気にかける人はほとんどいない。しかし『選挙2』になると、カメラをもつ想田さんに、登場人物がどんどん話しかけてくる。
相田「『精神』っていう映画で精神科に通う患者さんたちにカメラを向けたとき、カメラが回っているのに被写体の人がどんどん話しかけてくるんですよ。ぜんぜん放っておいてくれない。僕は水か空気のようになりたかったので、最初は困っていたんですけど、実は僕と患者さんのやりとりがすごく面白いので、映画に含めることにしたんですね。文化人類学などで「参与観察」という言葉がありますが、結局僕の観察映画は、観察をする主体=僕も含めた世界を観察することだと悟ったんです。自分も被写体の世界に参加せざるを得ないという考え方。
『選挙2』は、それが如実に出てきてしまって、誰もほっといてくれない(笑)自民党の人に、撮るな!って言われているのもまさにそれですよね。この観察映画のあり方と、311後の日本の状況って言うのはちょっと重なる部分があると思います。あの原発震災のお陰で、それまで「原発なんて自分とは関係ない」って思ってた人も、否応なく原発問題に巻き込まれていますよね。巻き込まれてない人なんていない。関わりたい、関わりたくないという意志とは関係なく、あらゆる人が巻き込まれる事態なわけですよ。
そういう事態になったっていうことと、僕の観察映画のカメラが巻き込まれていくというのは、ある意味パラレルというか、同時に進行している事態で、興味深いと思います。」
今の世の中で決定的にかけてるのは観察だ
ガラスを隔てた第三者から、同じ部屋にいる当事者としての観察。この立場の変化は、私達にも必要なんじゃないだろうか。駅で演説をする立候補者に私たちはあまりにも無関心だ。無関心でいる限り、自分も社会も変わらない。
相田「僕は今の世の中で決定的にかけてるのは観察、よく観てよく聴くこと、だと思うんです。あらゆる局面で観察が全く足りてない。結局のところ、観察しないから変わらないんです。何かを観察する人間は、必ず何かを発見してしまうので、自分自身も変わらざるを得ない。僕自身も映画を作ると自分の考えや世界観が変わっちゃうし。僕は観客にも映画の中で起きることを観察して欲しいので、マイケル・ムーアのように主張を観客の頭の中に叩き込むような作り方をしない。
僕はむしろ、映画の中で起きることを、観客に観察してもらいたい。今ある現実を、別の角度からみる。映画を見た後に風景が違って見えるような体験をしてもらえればいいと思っています。」
映画を見終わったあと、選挙活動をもっと見たいと思った。今までさらっと見逃していたポスター、駅前での演説、チラシ、投票所。観察する対象は無限にある。まずは映画をみながら、じっくりと想田さんの視線を体感してみてはいかがだろうか。
選挙費用総額8万4720円。スローガンは脱原発。山さん、怒りの再出馬。舞台は2011年4月の川崎市議会選挙。映画『選挙(』07年)では自民党落下傘候補だった「山さん」こと山内和彦が、完全無所属で出馬した。カネなし、組織なし、看板なし。ないないづくしの山さんに果たして勝ち目は?山さんが丸腰で挑む選挙戦から浮き彫りになるのは、ニッポンの民主主義の姿だ。選挙イヤーの日本。「わたしたち」は、いったいどこへ行こうとしているのか?
想田観察映画が、再び世界に問いかける!