ゆっくり、ゆったり40年続く、スローでやさしいエコせっけんの物語

日本国内の24市に地域拠点を置いている「YWCA」。地域拠点のひとつ、東京YWCAにある国領センターには廃油からせっけんを作る「エコグループ」があり、その活動はかれこれ40年ぐらい続いています。せっけんは「エコせっけん」と呼ばれています。

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材料は揚げ物をした後の食用油。各自持ち寄ることもあれば、YWCAのお料理の活動で使用した食用油を使うこともあり、また施設内の「まきば保育園」が給食で使用したひまわり油をいただいて作ることもあります。作り方は、使用済み油の缶の中に廃油と苛性ソーダを入れて、長い竹の棒で30分くらい交代しながら、混ぜ混ぜ。とろみがついたらせっけん生地を型に流し、数日経って固まったらできあがり。せっけんの型は牛乳パックをはさみで切って作ります。その後はほっと一息、紅茶とケーキを囲んでティータイムの時間。おしゃべりしながらゆったりとした時を過ごします。活動は月に一度、メンバーの8人が都合の良い日に集まり、二時間程度で作業を終えます。

せっけんを巡るストーリー

東京YWCAの活動の特徴の一つにグループ活動があります。東京YWCAの場合、5人以上の会員が申請し、認められれば会員グループとしての活動をスタートできます。お互いに交流しつつ、自分の興味関心、得意なことを深めながら、活動を続けています。エコグループも、約40年前に何人かの女性たちが集まってスタートし、以来、次の世代にバトンを渡しながら続いています。

エコグループは廃油からせっけんを作ることを通して、環境問題を考えてきました。先日、18年ぐらい前の資料が倉庫から出てきたのですが、メンバーが持ち寄ったせっけんに関する冊子や新聞の切り抜きから、熱心に学び合っていた当時の様子が分かりました。合成洗剤とせっけんの違い、それらの環境への影響についてなど、多くの資料が残っていたのです。人の生活が自然に与える影響を考え、自然と共に歩む暮らしのあり方を模索してきたことが伺えました。

その中の資料に、今から3000年前、肉を焼いた後の油と灰を混ぜてせっけんを作ったことが、その始まりだと書かれてありました。エコグループのせっけん作りは、まるで古代のせっけん作りにそっくりなのです。人の暮らしの原点に立ち、環境問題について考えていたからなのでしょうか。

この活動が長く続いてきた理由を考えます。エコせっけん作りは自然環境への配慮があるから?あるいは、シンプルな作業は誰にでもできて、人を誘いやすかったからでしょうか。活動が出会いの場にもなり、ほっとできる場所でもあったからでしょうか。私が仲間入りして感じたのは、活動されてきた先輩たちが他者を受け入れる懐の深さを持っていたことです。世代を超えて築かれた信頼関係の中で、活動が次の世代に引き継がれてきたのではないか、と思います。

もう一つ、場所の良さも関係あるかもしれません。作業している国領センターのキッチンは、女性たちがおしゃべりしながら集まるのにちょうどよい広さになっています。国領センターはかつて1800坪の土地にあり、それはまるで広大な森の中にあるイギリス庭園のようでした。都心からそう遠くないところで、こんなに豊かな自然を楽しめる場所はなかなかないでしょう。当時に比べると変化はあるものの、今もお庭にはヒマラヤ杉や銀杏などの大きな木や、数種の果樹があり、四季折々の植物や花が見られることに心癒されます。

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せっけんから環境を考える

合成洗剤のように、日常何気なくあたりまえのように使用しているものが、実は環境や健康に負荷を与えていることがあります。それにもかかわらず、効率や利益優先の社会で、「安全」について知る機会は限られています。情報を自分たちで集め、何が正しいのかを学び、日々の暮らしに取り入れて、より良い生き方を選択する。そんなことをグループ活動は可能にしました。意見を出し合い、仲間と共に「良い」と思うことを追求していけるのです。

廃油からエコせっけんを作ることは、ヤシ油を原料とするせっけんのように、熱帯の生態系に負担をかけることはありません。それは、できるだけ化学物質を取り込まない暮らしを目指す一歩にもなります。また、エコせっけんは何種類かの界面活性剤を組み合わせてつくる合成洗剤と比べて、後にとんでもない害が現れるようなことはない安心感があります。

その一方で、2000年頃から「せっけんは合成洗剤より水を汚さないか」という議論が活発になり、合成洗剤も改良が進んでいきました。[※注1] けれども、そんな時代の流れがあっても、いつも偏ることなく情報に注視しながら活動は続けられました。そもそも洗濯の回数が多いことも水を汚す原因になる、というような現代のライフスタイルのあり方も問いながら。

エコせっけんのよいところ

廃油で作るエコせっけんは、無添加なのでお肌にも優しく、汚れもよく落ちます。洗顔、浴用にはなりませんが、食器洗いや洗濯、お掃除にも使えます。湯飲みの茶渋もきれいになり、シンクやガス、レンジもきれいになります。活発な子どもたちの靴や衣服の汚れもきれいに落ちます。牛乳パックを開いて使えば、せっけん入れもいりません。何より廃油が活かされるので無駄がありません。油を捨ててしまわずにせっけんにして、洗い物に使い、排水にして水に返すので、自然への負担が少なく、環境に優しいのです。

廃油からせっけんを作る活動のもう一つの良いところは、大量生産を当たり前とする、ハイスピードの経済活動とは違うところ。月に一度友人たちと集まって、おしゃべりしながらせっけんを作る。楽しみながら、生活の一部としてできる手仕事です。一人ではなかなかできないことも数人集まればできます。地産地消な活動であるとも言えるでしょう。せっけん作りはスローライフです。この活動が、ゆっくり、ゆったり、心豊かに続いてきたところに注目しています。地域で資源を有効活用し、地球環境を守る未来志向の経済活動だと言えるでしょう。

[※注1] 衆議院(1979)「第087回国会 質問第二五号 合成洗剤の安全性等に関する質問主意書」(http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumona.nsf/html/shitsumon/a087025.htm